研究課題
本研究の主たる目的のひとつとして、「PGAM5による全身代謝制御メカニズムの解明」が挙げられる。PGAM5はミトコンドリア内膜に局在するプロテインホスファターゼであり、ミトコンドリア機能不全を起こした環境下では、膜内切断されるというダイナミックな変化がもたらされる。PGAM5が関与する細胞応答として、「細胞死」が広く解析されているが、「エネルギー代謝」という観点での情報には現状乏しい。PGAM5全身欠損マウスを用いた解析から我々は、低温環境下における体温維持能がPGAM5欠損により亢進することを見出した。哺乳類の体温維持システムは多岐に渡るが、重要なもののひとつに褐色脂肪組織による熱産生が挙げられる。そのため、PGAM5欠損の褐色脂肪組織への影響を検討したところ、FGF21をはじめとする複数の遺伝子発現レベルがPGAM5欠損マウスの褐色脂肪組織において亢進していることが見出された。さらに、電子顕微鏡を用いた解析から、低温環境下のPGAM5欠損マウスの褐色脂肪組織においては、ミトコンドリア機能異常が引き起こされている可能性が示唆された。しかしながら、PGAM5が具体的にどのような分子メカニズムでこれら応答を制御しているかに関しては、現状ほとんどが不明である。我々はすでに褐色脂肪細胞の初代培養系を構築済みであり、現在in vitro系においてPGAM5の機能解析を進めている。PGAM5欠損マウス由来の細胞を用いた解析のみならず、ホスファターゼ活性を持たない変異体、および、切断されない変異体を用いた解析も併せて行っている。
2: おおむね順調に進展している
PGAM5による全身代謝制御の解明を目的とした解析として、褐色脂肪組織に注目した検討を進めた。具体的には、野生型およびPGAM5欠損マウス由来の褐色脂肪組織を用いた遺伝子発現解析を中心行った。併せて、白色脂肪組織をはじめとする、エネルギー代謝制御に関与する他の組織における遺伝子発現解析も進めた。PGAM5欠損マウスのみならず、in vitroの培養細胞系を用いた解析を並行して進めることにより、PGAM5の褐色脂肪細胞における新規機能の解明に迫りつつある。異なる視点の検討として、PGAM5の切断と細胞死との関わりも検討を行った。我々はすでに切断されない変異型の作製に成功しており、PGAM5の膜内切断が細胞死亢進に寄与することも明らかにするに至った。
褐色脂肪細胞におけるPGAM5の機能解析をさらに推し進める。マウス個体を用いた解析のみならず、初代培養細胞系を駆使し、褐色脂肪細胞内でのPGAM5の機能を明らかにする。siRNAによるノックダウンやウイルスを用いた過剰発現系も適用可能であるため、PGAM5の新たな分子機能を明らかにする素地はすでに整っている。加えて、PGAM5の新規脱リン酸化基質の同定も精力的に行う。褐色脂肪組織をはじめとする各種組織、初代培養褐色脂肪細胞をはじめとする各種細胞の溶解液を用いて、PGAM5の野生型もしくはホスファターゼ不活性化型変異体を用いて結合分子解析を試みる。さらに、切断されない変異型を用いることで、PGAM5の膜内切断の新たな意義の解明も試みる予定である。
本研究課題における出費の大部分は、実験器具、実験試薬等をはじめとする消耗品類の購入に充当している。購入する器具や試薬の類は、実験の進捗状況に依存するだけでなく、種類によっては保存が不可能なものもある。そのため、消耗品の購入を単年度に限ることなく、複数年に分けることには大きな意味があり、研究を円滑に進めるために必須の要素となる。
(理由)の欄に示した通り、基本的には消耗品の購入に充当する予定である。購入する物品の類は、実験の進捗状況に依存するため、現時点で全てを明記することはできない。しかしながら、初代培養褐色脂肪細胞系に用いる培地や試薬類、および、ノックダウン実験に用いるsiRNAやトランスフェクション試薬等の購入を予定している。さらには、これら実験に用いるカルチャーディッシュなどの器具購入にも使用する予定がある。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 2件、 査読あり 8件、 謝辞記載あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件)
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