研究課題/領域番号 |
16K15116
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
相澤 康則 東京工業大学, バイオ研究基盤支援総合センター, 講師 (90418674)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 翻訳 / 上流ORF / ノンコードRNA / ミトコンドリア |
研究実績の概要 |
ヒト遺伝子から転写産生されるメッセンジャーRNA(mRNA)は数十万種類確認されているが、現在の遺伝子学の通説によれば、これら各mRNAには1種類のタンパク質しかコードされていないと考えられている。しかし我々は27年度までに、この通説の反証を1例同定している。この新しいタンパク質は、脳で特異的に発現しているmRNAの5’非翻訳領域にあるORF(上流ORF)から翻訳されている(この上流ORFを以下、uORF44とよぶ)。本研究は、この新発見の一般性を検証することを目標にしている。28年度は、uORF44発見までの経験を活かし、複数種類の異なるタンパク質をコードしているヒトmRNAの探索を進めた。具体的な成果を以下に列挙する。 (1)当初計画してたようにアミノ酸配列の保存性を指標にするのに加えて、公共のデータベースにあるリボソームプロファイリング(Ribo-seq)のデータや、KOマウス表現系データベースを新たに用い、機能性タンパク質をコードしている可能性の高いヒト上流ORF群の絞り込みを行った。その結果、両生物種で共通に脳で翻訳され、機能性をもつ可能性の高いているヒト上流ORFを43個選別した。 (2)43個の上流ORFを、FLAGタグやGFPと融合した形で発現できるようベクターを作成し、その細胞内局在をヒト細胞株で調べたところ、ミトコンドリアに局在するタンパク質をコードするものが一番多いことがわかった。 (3)そのうち2種類のタンパク質を過剰発現させると、ミトコンドリアの膜電位を有意に変化させることが分かった。このうちの一つのタンパク質のアミノ酸配列は、ミトコンドリアの呼吸鎖複合体の構成タンパク質としてすでに知られているタンパク質ファミリーと一部配列が類似していることから、この上流ORF(uORF13)はuORF44に続く、機能性タンパク質コード上流ORFである可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
28年度の1年間で、機能性タンパク質をコードする可能性が極めて高いuORF13を同定できたことは大きな進展である。しかしこれまで、uORF13に対する抗体を作成して、その内在性発現の有無を検証しているが、今のところその翻訳発現を確認できていない。そのために、uORF13が相互作用している他のタンパク質の探索も進んでいない。後述するように、uORF13を含むミトコンドリア内の複合体を同定することは、uORF13の機能性をさらに深く理解するためには不可欠であるので、現在免疫沈降の条件検討を多面的に進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
申請当初の計画に従えば、uORF13の欠損マウスの作成に着手するべきであるが、28年度の研究を経て、欠損マウスを作成する前にuORF13の過剰発現がミトコンドリア膜電位に変化をもたらす分子メカニズムを明らかにする実験も進めることとした。これは、本研究の成果を欠損マウス作成を待たずに論文化するためだけではなく、欠損マウスの表現型解析にも不可欠であるからである。29年度に入った現在、それに向けた実験を実行中である。 具体的には上述のように、uORF13タンパク質と相互作用するタンパク質の探索を29年度も進めているが、uORF13タンパク質が不溶性の膜呼吸鎖複合体に含まれている可能性があるため、可溶化条件の最適化やクロスリンク試薬の使用などを現在予備実験により検討している。またuORF13由来タンパク質が、どの呼吸鎖反応に関与しているかを明らかにするため、各呼吸鎖に特異的な阻害剤の使用も検討している。 また、uORF13以外の、28年度に選別された「機能性タンパク質をコードしている可能性の高い42個のヒト上流ORF」に対しても、その機能性を探索する。上述のように、これら上流ORFの多くがミトコンドリアに局在するタンパク質をコードしているが、その次に多かったのが核局在を示すものであった。これらタンパク質の中で転写因子として働いている可能性のあるものをレポーターアッセイでスクリーニングする予定である。
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