日本国内にて、高血圧の患者数は1000万人を超え、年間医療費は1兆9000億円に達することから、その発症機構を解明し高血圧を予防・治療することは、現代社会の喫緊の課題である。また、高血圧は、虚血性心疾患や脳卒中、腎不全などの発症原因となるため、その対策は臨床的に重要である。血圧制御機構として、末梢のRenin-Angiotensin-Aldosterone System(RAAS)のネガティブフィードバック機構が知られている。腎臓の傍糸球体細胞からレニンが分泌され、肝臓より分泌された血液中のアンジオテンシノーゲンからアンジオテンシンIという物質を生成する。続いてアンジオテンシンIはアンジオテンシン変換酵素(ACE)によりアンジオテンシンIIに変換され、全身の動脈を収縮させるとともに、副腎皮質からアルドステロンを分泌させる。アルドステロンはナトリウムを体内に溜めるため、循環血液量が増加して心拍出量と末梢血管抵抗が増加し、血圧上昇へと繋がる。一方で、血圧上昇後には、レニン分泌は阻害され、RAAS系の働きが低下し、血圧は下がる。本研究において、私はこのRAAS系が脳内では末梢とは異なりポジティブフィードバック機構を形成している結果を得た。すなわち、マウスに高食塩および低食塩負荷をかけると、副腎ではアルドステロン合成酵素であるCyp11b2の発現がそれぞれ減少および増加するが、視床下部では逆にそれぞれ増加および減少した。この結果は、高食塩負荷による視床下部のCyp11b2発現の増加が高血圧の発症に寄与することを示唆するものである。本研究において、脳特異的Cyp11b2ノックアウトマウスの繁殖が十分に進んだので、今後は脳のCyp11b2の血圧制御に関する生理機能をマウス個体レベルで解明していきたい。
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