研究課題/領域番号 |
16K15120
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
谷岡 利裕 昭和大学, 薬学部, 講師 (80360585)
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研究分担者 |
篠崎 昇平 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 寄附講座准教授 (40622626)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | Nitric Oxide / GSNOR / S-nitrosylation / Sepsis / Heart / Cytokine |
研究実績の概要 |
全身性の炎症が起こる敗血症に対する確実な治療法はなく、敗血症早期より認められる心筋障害におけるに対する治療法も非常に少ない。本研究では、S-ニトロソ化タンパク質からNOを取り除く酵素として知られているS-nitrosoglutathione reductase (GSNOR)を標的分子とし、敗血症時の心臓においてGSNORにより制御される分子の同定・およびその制御メカニズムを解明することで新たな敗血症治療法確立に貢献することを目的としている。本年度は、GSNORノックアウトマウスの敗血症モデルマウスを用いて、心臓において増加するS-ニトロソ化タンパク質を網羅的に解析し、GSNORにより脱ニトロソ化される候補分子の同定を目指した。GSNOR KOマウスにLPS(10mg/kg body)6時間投与することにより敗血症を誘発した心臓をサンプルとし、一方で、WTマウスに生理食塩水を投与した心臓をコントロールとして比較検討した。S-ニトロソ化タンパク質を蛍光検出するため、Fluorescence Switch Assayにより心臓ホモジネートをCy3 Maleimideで前処理し、その後、蛍光標識2次元ディファレンスレンスゲル電気泳動法(2D-DIGE)を行うことで網羅的に解析した。得られた蛍光スポットをFluoro Phorester 3000で可視化した結果、GSNOR KOマウスにおいて増加するタンパク質を多数見出すことができ、現在LC-MS解析しているところである。さらに、GSNOR KOマウスの心臓におけるサイトカイン産生を検討した結果、GSNOR KOマウスにLPSを投与した心臓でIL-6発現が顕著に増加していることを明らかにした。TNF-α産生に変化は認められなかったことから、S-ニトロソ化タンパク質の増加にはIL-6産生増加が一部になっている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画ではGSNOR KOマウスアメリカから入手する予定であったが、搬入することに時間を要すること、金銭的に高額となってしまうことなどから、国内でGSNOR KOマウスを保有していた日本医科大学から供与して頂くことに変更したため、GSNOR KO由来のサンプル調製までに時間がかかってしまった。そのため初年度研究計画がやや遅れている。しかしながら、現在は初年度に予定していた計画はほぼ遂行できており、LC-MS解析を順次進めているところである。また、いくつか候補分子の絞り込みが終了した段階で培養系の実験へ移行する予定である。培養細胞系の実験ではGSNOR抗体による検出系が必須であるが、GSNORペプチド抗体を用いることでタンパク質を捉えることが可能となっている。また、本抗体が細胞免疫染色あるいは免疫沈降法にも使用できることを確認している。一方で、ノックダウンあるいは過剰発現細胞を用いるため、これらの準備も並行して行っている。現在までにノックダウンあるいは過剰発現細胞株の確立を試み、ノックダウン細胞に関してはsiRNAをエレクトロポレーション法にて導入し、ノックダウンされていることを確認した。一方で、過剰発現用ベクターおよびコントロールベクターは現在作製中である。GSNORを活性制御しうる生薬のスクリーニングを行うべく、活性測定法の構築も完了している。
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今後の研究の推進方策 |
これまで解析を進めてきたGSNOR KOマウス敗血症モデルマウスの心臓において上昇するニトロソ化タンパク質の網羅的解析・LC-MSによる同定をさらに進めるとともに、心臓における新規分子のGSNORによる制御機構を明らかにしていく予定である。具体的には候補分子がS-ニトロソ化される分子であるか否かについてビオチンスイッチアッセイ法にて検討し、また、GSNOR阻害剤、iNOS阻害剤などを用いて新規同定分子のニトロソ化の程度を定量する。本研究ではNOを取り除く酵素であるGSNOR KOマウスを用いた解析を重点的に行う予定であるが、NOを合成する酵素として知られるiNOS KOマウスあるいはDKOマウスを用いた解析を行うことにより、iNOS/GSNOR制御システムにより制御される分子であることを証明する必要がありこれらの解析も合わせて行う。心臓機能に及ぼす影響については、新規分子とiNOSあるいはGSNOR遺伝子導入細胞を構築することにより各種心臓パラメーターを測定する。測定項目としては、LPS刺激時のサイトカイン産生、ROS産生能、カルシウム流入、アポトーシス、ミトコンドリア障害で、これらの心筋機能障害のパラメーターはキットを使用して測定する。また、新規同定分子のS-ニトロソ化の部位を同定し、変異体株を作製することによりその意義を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度はGSNOR KOマウスを用いた解析を行うことを計画しており、アメリカから搬入を予定していたが、手続・繁殖等時間を要すること、輸送コストが高額になるなどの理由のため、急遽国内でGSNOR KOマウスを保有していた日本医科大学から供与して頂くことに変更することとした。その結果、GSNOR KOの入手までに時間を要してしまったため、次年度使用額が生じてしまった。現在は、GSNOR KOマウスを使用できる環境にあり、初年度の解析はほぼ完了しているため、次年度の計画実施に特に問題はない。現在、搬入手続きをとっているところであり、日本医科大学の手続きが終了したところで速やかに搬入可能である。昭和大学の遺伝子組み換え実験計画(承認番号1751)および動物実験計画書(承認番号27039、27040)は既に承認済みである。
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次年度使用額の使用計画 |
初年度および次年度分の経費は、マウス入手により発生する維持費に使用するほか、GSNOR KOマウス心臓で増加したS-ニトロソ化タンパク質の同定に高頻度で使用しているLC-MS関連試薬に必要である。また、すでにいくつかのタンパク質を同定していることから、今後は計画書通りに培養系の実験に移行することを予定しており、培養用試薬、遺伝子クローニング試薬、各種抗体、リアルタイムPCR用試薬、遺伝子導入試薬、各種ELISAキット、新機能評価測定用試薬など細胞生物学的手法を用いた解析に使用する予定である。
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