研究課題/領域番号 |
16K15126
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田熊 一敞 大阪大学, 歯学研究科, 教授 (90289025)
|
研究分担者 |
吾郷 由希夫 大阪大学, 薬学研究科, 助教 (50403027)
長谷部 茂 大阪大学, 歯学研究科, 助教 (30754725)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 自閉症 / 難治性うつ病 / 覚せい剤精神病 / エンカウンター試験 / Resident-intruder試験 |
研究実績の概要 |
本研究は,罹患率の高い慢性疾患であり,患者のQOLの著しい低下や大きな経済的損失をもたらしている不安障害について,薬物療法に代わる治療法として認知行動療法に着目し,動物実験によるそのモデル化を目指すものである.具体的には,精神疾患および発達障害のモデル動物において,最近独自に考案したエンカウンター・ストレス法による社交性刺激を利用した認知行動療法モデル系を確立し,症状改善に関わる神経分子基盤の解明を目的とする.今年度は,精神疾患および発達障害のモデル動物において,その疾患様異常行動に対する既存の向精神薬による改善効果,ならびに発症に関わる神経分子基盤を追究した.自閉症モデルマウスである胎仔期バルプロ酸曝露マウスの社会性行動異常が非定型抗精神病薬およびオキシトシンにより改善されることを認めた (現在投稿中).難治性うつ病モデルであるコルチコステロン慢性投与マウスにおいて,前頭前皮質での5-HT(1A)/σ1受容体による相乗的なドパミン遊離作用にGABA(A)受容体が関与することを明らかとした (Psychopharmacology, 2016).また,GABA(A)受容体遮断薬であるピクロトキシン投与マウスの意欲低下行動にσ1受容体に感受性を有するセロトニン再取り込み阻害薬が抑制作用を示すこと (Br. J. Pharmacol., 2017).さらに,メタンフェタミンを慢性投与した覚せい剤精神病モデルマウスにおいて,エンカウンター刺激により行動過多に前頭前皮質のセロトニン神経とドパミン神経が関与することを明らかとした (Int. J. Neuropsychopharmacol., in press).
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では,精神疾患モデルとして3種 (統合失調症,覚せい剤精神病および難治性うつ病モデル) および発達障害モデルとして2種 (胎生期バルプロ酸曝露および胎生期リポ多糖曝露モデル) のマウスを用いて,社会的認知刺激によるマウスの異常行動の改善,すなわち認知行動療法の動物モデルを確立することを目的としている. 疾患モデル動物作製の進捗状況については,胎生期リポ多糖曝露モデルを除く4種の作製ができており,現在までに本研究の目的達成において重要な行動学的および神経生化学的な基礎データを多く蓄積している. 物理的接触の有無を考慮した個体間での社会的認知刺激については,前者は研究代表者らが考案したエンカウンター試験を,後者はResident-intruder試験を用いることにしており,いずれも単回の刺激試験においては安定な解析結果が得られている.また,エンカウンター試験については,予備実験により繰り返しの実施が可能であることを確認している.しかしながら,現在までに,両試験とも疾患モデル動物の情動行動異常を改善する至適条件 (繰り返し回数,1日あたりの提示時間など) の試行には至っていない.このことが,区分を「やや遅れている.」とした理由である.
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は,年度当初より認知行動療法の確立に向けた行動学的試行に集中し注力する.具体的には,精神疾患および発達障害モデル動物において,エンカウンター試験ケージを用いた個体間接触の無い社会的認知刺激,およびResident-intruder試験をベースにした個体間接触を伴う社会的認知刺激の反復提示を行い,「社交性行動異常」の経時的変化を解析する.また,各刺激提示間における動物の馴化を指標として,1日あたりの提示時間の至適化も合わせて検討する. また,社会的認知刺激による社交性障害改善に関わる神経分子基盤については,神経ネットワーク網変化やエピゲノム変化の観点から追究する.これら神経化学的解析においては,行動学的解析からよりスムーズに移行できるように実験計画の見直しを行い,前年度の研究の遅れを取り戻せるような推進方策を立てたいと考えている.
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度に実施を計画していた行動学的試験の一部が次年度にずれ込み,それに合わせて消耗品を繰越したため.
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度繰越分は実験動物購入費など全て物品費(消耗品)で使用する.
|