研究実績の概要 |
本研究は,罹患率の高い慢性疾患であり,患者の著しいQOL低下や大きな経済的損失をもたらしている精神疾患および発達障害について,薬物療法に代わる治療法として認知行動療法に着目し,動物実験によるそのモデル化を目指して立案した.具体的には,精神疾患および発達障害のモデル動物において,社交性刺激を利用した認知行動療法モデル系を確立し,症状改善に関わる神経分子基盤の解明を目的とした.平成28年度は,各疾患モデル動物において,その疾患様異常行動に対する既存の向精神薬による改善効果,ならびに発症に関わる神経分子基盤を追究し,自閉症モデルマウスである胎仔期バルプロ酸曝露マウスの社会性行動異常が非定型抗精神病薬およびオキシトシンにより改善されること (Psychopharmacology, 2017; Horm. Behav., 2017),メタンフェタミンを慢性投与した覚せい剤精神病モデルマウスのエンカウンター刺激による行動過多に前頭前皮質のセロトニン神経とドパミン神経が関与することを明らかとした (Int. J. Neuropsychopharmacol., 2017).平成29年度は,本研究の主目的である社会的認知刺激によるマウスの異常行動の改善について検討を試みた.しかしながら,個体間接触の無い社会的認知刺激 (エンカウンター刺激),およびresident-intruder試験をベースにした個体間接触を伴う社会的認知刺激ともに,反復提示による情動行動異常の改善効果を見いだすには至らなかった.一方,代替え的な成果にはなるが,発達障害モデル動物を幼若期より,認知刺激などを強化した“豊かな飼育環境”で4週間発育させると,異常行動が改善され,その神経分子基盤が脳海馬CA1領域における樹状突起スパイン密度の低下改善であることを明らかとした (Behav. Brain Res., 2017).
|