研究課題/領域番号 |
16K15127
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
鈴木 良明 名古屋市立大学, 大学院薬学研究科, 助教 (80707555)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 薬理学 / 薬学 / 生体分子 / 生物物理 / 免疫 |
研究実績の概要 |
マクロファージ(Mφ)は自然免疫系において非常に重要な役割を担っている。Mφの主な機能として、生体外から侵入した異物の貪食作用、貪食した異物の情報を他の免疫細胞に伝える抗原提示作用、他の免疫細胞の活性化をコントロールするサイトカインの産生作用などが挙げられる。Mφは一連の免疫応答を引き起こすために、細胞外の環境変化を感知し、細胞内に情報を伝達する多様な機構を備えている。この情報伝達機構の一つに、イオンチャネルによる細胞膜電位の制御がある。我々は、pH、温度、機械刺激など、多様な細胞外刺激によって活性化・不活性化を引き起こし、細胞膜電位を制御するTwo-pore-domain K+(K2P)チャネルに着目した。本研究では、Mφに発現する主要なK2Pサブファミリーを同定し、Mφ機能への寄与を明らかにすることを目的とした。 ①発現解析の結果、TWIK-1のmRNAおよびタンパク質レベルでの発現が検出された。 ②TWIK-1は持続的にエンドサイトーシスを受けるため、細胞膜発現が不安定であることが報告されている。そこで、TWIK1の細胞外ドメインを認識する抗体を用いて、非膜透過処理下で染色したところ、意外なことにTWIK-1がマウス腹腔Mφの細胞膜上に安定的に発現することが明らかになった。 ③ホールセルパッチクランプ法により膜電流を測定したところ、想定されるK+電流は検出されなかった。細胞外のK+を除くと、TWIK-1は非選択的陽イオンチャネルとして機能することが知られている。そこで、0 mM K+条件下で膜電流を測定したところ、非選択的な陽イオン電流が検出された。この電流はshTWIK-1によるノックダウンにより有意に減少した。 以上より、TWIK-1はMφにおいて非選択的な陽イオンチャネルとして機能し、細胞膜のイオン輸送を介して多様なシグナル伝達に寄与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①定量的PCR、ウエスタンブロッティング、免疫染色法などの多方面からの発現解析の結果、腹腔マクロファージにおいてTWIK-1が発現することを初めて明らかにした。また先行研究の結果に基づく予想とは反して、TWIK-1が細胞膜上に局在することを明らかにした。今後、蛍光ビーズや粒子状物質の貪食によって細胞膜発現量あるいはエンドサイトーシス効率の変化などを解析する。
②ホールセルパッチクランプ法により、TWIK-1がK+チャネルとしてではなくむしろ非選択的陽イオンチャネルとして機能することを示唆するユニークな結果が得られた。今後細胞外環境によるイオン選択性の変化や細胞膜電位に対する影響を明らかにする。
③レンチウイルスによる遺伝子導入系の立ち上げに概ね成功した。これによりshRNAの導入によるTWIK-1のノックダウンが可能になり、選択的な阻害薬が存在しないTWIK-1の機能的解析を行うことができるようになった。しかし、ウイルスのタイターに依然ばらつきがあるため、プロトコールをより簡素化・統一する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
①細胞膜電位に対する影響の解析:TWIK-1の細胞膜発現が明らかになったが、そのイオンチャネルとしての機能は不明な点が多い。0 mM K+条件下の非選択的陽イオン電流に加えて、K+をRb+に置換した際のRb+電流も測定し、TWIK-1の機能発現をより明らかにする。また、pHなど細胞外環境の変化によるイオン選択性に対する影響を明らかにする。さらに、細胞膜電位に対するTWIK-1の寄与をパッチクランプ法や膜電位感受性色素を用いた実験により明らかにする。
②各種炎症性サイトカイン産生に対する影響の解析:LPSやTNFαなどで刺激した際の各種サイトカイン産生に対するTWIK-1の寄与を定量的PCRやELISA法によって明らかにする。特にATP刺激によって引き起こされるNLRP3インフラマソームの活性化(特に、膜電位変化や細胞内Ca2+濃度変化、IL-2産生量の変化など)に対する寄与を明らかにする。
③蛍光ビーズなどの粒子状物質で刺激した際のTWIK-1の細胞内局在の変化の解析:ATPのみならずシリカやアスベスト、尿酸結晶などの粒子状物質によっても炎症性サイトカインが産生されることが明らかにされている。そこで、蛍光ビーズや尿酸結晶、水酸化アルミニウムなどの粒子状物質で刺激した際のTWIK-1の細胞内局在や機能変化を明らかにする。またサイトカイン産生量の変化についても明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
概ね計画通りに予算を執行することができた。 腹腔マクロファージの状態やレンチウイルスの性能・タイターが安定しないことがあったため、ELISA法によるサイトカイン産生量の検討が十分に行えず、使用額に差が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
より安定的な系で実験を行うため、骨髄由来マクロファージ(BMDM)を用いた実験系を立ち上げる。また、これまでに得られた結果が、チオグリコレート培地で誘導した腹腔マクロファージに特異的なものであるという可能性を排除するため、BMDMも含めた他種のマクロファージを用いてTWIK-1発現・機能を調べる。
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