マクロファージ(Mφ)は自然免疫系において非常に重要な役割を担っている。Mφの主な機能として、生体外から侵入した異物の貪食作用、貪食した異物の情報を他の免疫細胞に伝える抗原提示作用、他の免疫細胞の活性化をコントロールするサイトカインの産生作用などが挙げられる。Mφは一連の免疫応答を引き起こすために、細胞外の環境変化を感知し、細胞内に情報を伝達する多様な機構を備えている。この情報伝達機構の一つに、イオンチャネルによる細胞膜電位の制御がある。本研究では、Mφの活性化状態で発現レベルが大きく変動する内向き整流性K+チャネル(Kir2)の生理的役割を明らかにすることを目的とした。 まず、マウス骨髄由来Mφを用いてホールセルパッチクランプ法により膜電流を測定した結果、Kir2.1とKir2.2由来の内向き整流性電流が観察された。ストア作動性Ca2+流入(SOC)に対するKir2活性の影響を調べたところ、Kir2活性はSOC活性を上昇させることが明らかになった。SOC活性は様々な細胞で分化・増殖などに関与することが知られている。そこで、Kir2の特異的阻害剤である低濃度Ba2+を用いて、単球からMφへの分化に対するKir2の関与を調べた。しかし、Mφの分化に対するKir2の関与は認められなかった。さらに細胞増殖やビーズ貪食に対するKir2の影響を調べたが、いずれの場合もBa2+投与による変化は見られなかった。 一方、LPSで刺激してM1に分化させると、Kir2.1のmRNAレベルおよび電流量は有意に低下した。またM1時では、静止膜電位の脱分極シフトと静止時の細胞内Ca2+濃度の低下が観察された。M1状態のMφに対してKir2.1を過剰発現させると、LPS刺激後のサイトカイン産生(IL-1bやTNFaなど)は有意に低下した。 以上より、Kir2.1はMφのM1状態への分化に対する抑制因子の1つとして機能すると推測される。
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