昨年度から改良を加えているラット頸部迷走神経の慢性刺激モデルが完成し、3週間以上の長期に渡って迷走神経刺激 (VNS)を連日行うことが可能となった。心拍数の低下をモニターすることで、VNS効果の追跡が可能であることが分かった。モデルの有効性は、LPSを用いた実験的敗血症モデル(LPSの腹腔内もしくは静脈内投与により血中の炎症性サイトカイン量が増加する)により検討を加えた。慢性VNS刺激ラットモデルにおける腸内細菌叢の変化を16S rRNA解析により検討したが、大きな変化は認められなかった。このため、腸内細菌叢の解析から、免疫や炎症細胞などの生体側因子の変化や病態感受性の変化に研究のフォーカスをシフトさせた。炎症性腸炎のモデルとしては、TNBS(トリニトロベンゼンスルホン酸)誘発腸炎モデル、DSS(デキストラン硫酸)誘発腸炎モデルを用いた。両者では炎症に関与する免疫担当細胞に違いがあることが知られている。TNBS誘発腸炎モデルでは急激で重篤な腸炎が誘発されたが、慢性VNSによる効果は認められなかった。DSS誘発腸炎モデルでは比較的長期に渡る病態進行の評価が可能なため、炎症の発生・進行期とその後の回復期(DSS投与中止以後の経過)を解析した。その結果、慢性VNSは腸炎の発生・進行期には影響を与えなかったが、回復期では促進効果が加速する傾向がみられた。また、同時に腸管粘膜層に病態抵抗性が認められた。このため、T細胞、B細胞、樹状細胞、マクロファージなどの動態を粘膜層と筋層に分けて解析を行っている。
|