核内受容体は生命の根源的な活動を制御するリガンド依存的な転写因子であり、医薬開発の重要な標的である。従来、核内受容体に対しては、リガンド結合ドメイン(LBD)へ結合して受容体の転写活性を制御するリガンド化合物が多数開発されてきたが、近年、古典的なリガンドでは制御できない種々の機能が明らかになり、新たな制御法の開発が必要とされる。本研究では、核内受容体型転写因子の機能に対する新たな制御法の開発を目的として、古典的リガンドとは異なる新規標的部位および新規作用メカニズムを有する核内受容体モジュレーターの創製を行う。具体的標的として核内アンドロゲン受容体(AR)を設定し、人工翻訳後修飾のミミックを意図したARコバレントモディファイヤーの創製を行うとともに、核内受容体を含む転写因子の統合的な制御法の開発を発展的目標とする。 本研究課題では、ARのN末端ドメイン(NTD)に結合すると報告されている化合物EPI001を基盤として、構造活性相関の検討と、ARの活性を様々に制御する化合物の創製を目指した。前年度、基本的な構造活性相関の把握を目的とした化合物展開を行い、標的に求電子的に反応するコバレント結合部位の必要性を明らかにするとともに、骨格構造の構造展開から、EPI001と比較してより高活性の化合物の創製に成功した。本年度はさらなる構造展開を行い、EPI001とは異なる活性を有する化合物を見いだすことに成功した。EPI001は、我々の構築した評価系においてはAR転写活性を亢進するが、今回新たに見いだした化合物は、本評価系にてAR転写抑制活性を示す。以上より、転写活性の亢進および抑制のいずれにも制御可能な化合物を創製した。本研究で創製した化合物および得られた構造活性相関の情報は、新規ARモジュレーターのさらなる発展に有益な知見である。
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