研究課題
脳梗塞が起こった虚血脳に血流が再開通すると酸素フリーラジカルが急増し、脂質過酸化が促進される結果、過酸化脂質から細胞毒性アルデヒドHNEが生成する。現用脳保護薬エダラボンは、脳梗塞急性期に脳内に生ずるフリーラジカルを消去する化合物である。本研究ではHNEを不活化することで脳保護作用を示す化合物の設計、合成、機能解析を行うことを目的とした。HNEはα,β-不飽和アルデヒド構造をもち、蛋白質のアミノ酸残基とMichael付加およびSchiff塩基形成により架橋を形成することによって毒性を示す。本研究でリード化合物として選択したカルノシンはβ-アラニンとヒスチジンからなるジペプチドで、反応性のイミダゾールとアルキルアミノ基を持っており、HNEと付加物を形成する。一方、ヒスチジンヒドラジドが脳虚血に対して神経保護作用をもつとの報告があるが、ヒスチジンヒドラジドのイミダゾール部分とヒドラジド部分がHNEと反応すると推察される。本研究ではカルノシンとヒスチジンヒドラジドを融合させた構造のカルノシンヒドラジドを設計した。カルノシンヒドラジドはHNEと反応して二環性の付加物を形成すると推察される。カルノシンヒドラジドを含め4つの誘導体を合成した。これらの化合物のHNE消去活性を調べたところ、カルノシンヒドラジドが最も優れた活性を示した。PC-12細胞をHNEで処理するとほぼ全ての細胞が死滅したが、L-カルノシンヒドラジドを加えると70%以上の細胞が生存した。
1: 当初の計画以上に進展している
カルノシンヒドラジドの誘導体4種類を合成することができ、そのうちカルノシンが最も良好なHNE消去活性を示した。これは細胞を用いた実験で裏付けることができた。これらの成果は、カルノシンヒドラジドの分子設計が正しかったことを示すものであり、当初の計画以上に進展したということができる。
今後はスナネズミの一過性脳虚血モデルを用いた実験を行い、in vivoでの効果を確かめる。さらに、カルノシンヒドラジドの改良型化合物の設計と合成を行う。
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