本研究では、リポカリン分子がネットワークを構築し、糖脂質代謝系の制御機構を担っているという作業仮説のもと、補体(C8)の構成成分の一つとして見出された分子でありながら、未だその機能に不明な点が多いリポカリン分子のC8γに着目し、CRISPR/Cas9システムを用いて独自に作製したC8γ欠損マウスを用いてその機能解明を試みている。今年度は、通常食摂取時に加え、高脂肪食負荷時におけるC8γ欠損の影響についても検討を行った。 通常食を摂取させた12週齢の野生型およびC8γ欠損の雌雄マウスの各種血清マーカーについて検討を行ったところ、グルコース、コレステロール、トリグリセリド、中性脂肪の各レベルには影響が認められなかった。また白色脂肪中の糖脂質代謝関連遺伝子の発現にも影響が認められなかった。しがたってC8γは、通常時においては糖脂質代謝系に特段の影響を与えない可能性が示唆された。 次に4週齢から16週齢まで12週間高脂肪食(60kcal% 脂肪含有量)負荷を与えた検討を行った。その結果、体重増加には影響が認められなかった。また実験終了時の臓器重量についても検討を行ったところ、肝臓、腎臓、心臓、胸腺、脳、肺、精巣、精巣上体、前立腺、白色脂肪では影響が認められなかったが、褐色脂肪については、C8γ欠損マウスにおいて有意な重量の低下が認められた。一方で、糖脂質代謝系に与える影響を検討するために各種血清マーカーについても検討を行ったが、グルコース、コレステロール、トリグリセリド、中性脂肪の各レベルには影響が認められなかった。しがたってC8γは、褐色脂肪の分化や形成に何らかの影響を与えている可能性が示唆された。
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