研究課題
本研究では、マスト細胞内顆粒に亜鉛が豊富にたくわえられており、刺激によって細胞外に放出されるという観察から、マスト細胞内の顆粒膜に発現する亜鉛トランスポーターを同定し、マスト細胞顆粒内亜鉛及び放出亜鉛を特異的に欠損するマウスを樹立することにより、これらマスト細胞から放出された亜鉛とマスト細胞依存性の創傷治癒における関係を明らかとすることを目的としている。1960年代に、マスト細胞顆粒内に亜鉛が豊富に存在することが観察されている。また、これら顆粒内に存在する亜鉛が細胞の活性化に伴い細胞外に放出されることも示されている。しかしながら、これらマスト細胞顆粒内亜鉛の役割や放出された亜鉛の生体での特に、創傷治癒に対する影響に関しては不明である。そこで、活性化されたマスト細胞から放出された亜鉛がサイトカインなどのように炎症性メディエーターとして機能し(亜鉛シグナル)、創傷治癒過程の炎症を制御する可能性を考えた。本年度は、マスト細胞で高い発現を示した亜鉛トランスポーター、ZnT2の抗体を作成し、免疫電子顕微鏡法によりZnT2が顆粒膜に発現していることを見出した。また、既に樹立しているZnT2遺伝子欠損マウスより調整したマスト細胞においては、刺激依存的な放出亜鉛が観察されなかった。この結果と一致して、刺激依存的な亜鉛放出が観察されないZnT2遺伝子欠損マウスでは皮膚の創傷治癒に異常が認められた。以上の結果より、マスト細胞で観察された刺激依存的な亜鉛放出には、顆粒膜に発現している亜鉛トランスポーター、ZnT2が関与しており、マスト細胞からの放出亜鉛が皮膚の創傷治癒を調節している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度はマスト細胞からの刺激依存的な亜鉛放出に関与する亜鉛トランスポーターの同定と、同定した亜鉛トランスポーター遺伝子欠損マウスと皮膚創傷治癒との関係性についての解析を実施した。結果、幸いにも下記に示す結果が得られたので、本研究計画は順調に進展しているものと考えている。①マスト細胞からの刺激依存的な亜鉛放出は亜鉛トランスポーター、ZnT2が必要である:マスト細胞で高発現していた亜鉛トランスポーター、ZnT2に対する抗体を用いて、免疫電子顕微鏡法を実施したところ、ZnT2はマスト細胞内顆粒膜に発現していることが判明した。また、ZnT2遺伝子ノックアウトマウス由来のマスト細胞では顆粒亜鉛が消失しており、刺激依存的な放出亜鉛も観察されなかった。以上のことから、亜鉛トランスポーター、ZnT2がマスト細胞内顆粒亜鉛の蓄積と、活性化に伴う亜鉛放出に必須の分子であることが示された。②創傷治癒の過程に、亜鉛トランスポーター、ZnT2が関与している:マスト細胞顆粒亜鉛蓄積に関与していることが示されたZnT2遺伝子ノックアウトマウス用いて、創傷治癒モデルに関して検討を行った。その結果、ZnT2が皮膚の治癒過程に関与している知見が得られた。さらに、マスト細胞欠損マウス(KitW-sh/W-sh)にZnT2遺伝子ノックアウト由来マスト細胞を移植することで、マスト細胞の顆粒亜鉛が、創傷治癒に関与しているかどうか調べたところ、ZnT2遺伝子ノックアウト由来マスト細胞を移植したKitW-sh/W-shマウスにおいて創傷治癒の遅延が観察された。以上のことから、マスト細胞顆粒膜に発現している亜鉛トランスポーター、ZnT2が創傷治癒に必須な分子であることが示された。
本年度の結果より、マスト細胞から刺激依存的に放出された亜鉛が、皮膚創傷治癒をポジティブに制御している可能性が示された。また、マスト細胞からの放出亜鉛に関与している亜鉛トランスポーター、ZnT2遺伝子欠損を用いた解析により、放出亜鉛が創傷治癒過程の炎症相制御に関わっているデーターも示された。以上の結果を踏まえ次年度では下記に示す2点について検討を実施する。①皮膚創傷治癒関連細胞(樹状細胞、マクロファージ、皮膚繊維芽細胞)における亜鉛刺激依存的なサイトカイン誘導の検討:マスト細胞から放出された亜鉛の炎症関連細胞に対する影響を検討するために、樹状細胞、マクロファージ、皮膚繊維芽細胞を用いて、亜鉛刺激依存的なサイトカインの産生が起こるかどうかを検討する。培養樹状細胞、マクロファージ、皮膚繊維芽細胞に亜鉛を添加し、刺激後、数時間でのサイトカインの転写活性化をリアルタイムPCRで測定する。特に、炎症性サイトカインとして重要なIL-6, TNF-αに着目して、検討を実施する。②亜鉛受容体 GPR39が刺激依存的なサイトカイン産生に関与しているかの検討:亜鉛刺激によるサイトカイン転写活性化が、最近、神経系の研究分野で報告されている亜鉛受容体(亜鉛が直接会合し、細胞内にシグナルを伝達する)が関係しているかどうかを検討する。これらを明らかにするために、炎症関連細胞にGPR39 siRNAを導入することで、GPR39のノックダウンを実施する。また亜鉛刺激によるサイトカイン転写活性化における細胞内の調節制御機構を調べる目的で、シグナル伝達の解析を行う。これら亜鉛刺激によるIL-6産生機構の解析では各種シグナル分子活性化の阻害剤やsiRNAノックダウン法を用いて検討を行う。最終的にはどのような細胞内シグナル伝達経路で制御されているのかを生化学的な解析を中心に実施する。
本年度では亜鉛トランスポーター遺伝子ノックアウトマウスを用いた解析を中心に実施した。現在までの進捗状況でも示したように、炎症疾患誘導モデル実験において期待どおりの結果が得られた。よって、当初の計画より遺伝子ノックアウトマウスの交配規模が小スケールであったためマウスの飼育や解析にかかる経費の一部を次年度に繰り越した。
次年度では予定している亜鉛受容体遺伝子ノックアウトマウスの交配スケールを増やし、炎症疾患誘導モデルである創傷治癒に加えて、他の炎症誘発モデルの解析を実施することにした。
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