本研究では、マスト細胞内顆粒に亜鉛が豊富にたくわえられており、刺激によって細胞外に放出されるという報告から、マスト細胞内の顆粒膜に発現する亜鉛トランスポーターを同定し、マスト細胞顆粒内亜鉛及び放出亜鉛を特異的に欠損するマウスを樹立することにより、これらマスト細胞から放出された亜鉛とマスト細胞依存性の創傷治癒における関係を明らかとすることを目的としている。 1960年代に、マスト細胞顆粒内に亜鉛が豊富に存在することが観察されている。また、これら顆粒内に存在する亜鉛が細胞の活性化に伴い細胞外に放出されることも示されている。しかしながら、これらマスト細胞顆粒内亜鉛の役割や放出された亜鉛の生体での特に、創傷治癒に対する影響に関しては不明である。そこで、活性化されたマスト細胞から放出された亜鉛がサイトカインなどのように炎症性メディエーターとして機能し(亜鉛シグナル)、創傷治癒過程の炎症を制御する可能性を検証してきた。最終年度では、より生理的な条件下での亜鉛と創傷治癒の関連性を調べるために、低亜鉛血症モデルマウスを樹立し、皮膚機能と皮膚創傷治癒への影響を解析した。亜鉛欠乏餌で5週間飼育したヘアレスマウスは、通常餌で飼育したヘアレスマウスに比べ血清亜鉛が約半分程度に減弱していた。この結果と一致して、乾燥肌の指標である角層水分量が低亜鉛血症モデルマウスにおいて低下していることが判明した。これに加え、皮膚バリア機能の指標である経表皮水分蒸散量においても異常が観察され、バリア機能の障害も示された。この低亜鉛血症モデルマウスに創傷治癒を施したところコントールと比べ明らかな創傷治癒の遅延が観察された。以上の結果は、亜鉛が正常な皮膚機能維持と創傷治癒制御に関与していることを示唆している。 本研究を通して、これまで漠然と示されてきた亜鉛と皮膚創傷治癒の関係についての分子機序の一旦を示すことができた。
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