現在、医薬品開発の効率化を目的として、培養細胞や人工脂質膜を用いたin vitroでの薬物吸収性評価法が広く適用されている。しかし、いずれの評価系についても、実際の小腸における絨毛上皮構造や生理環境の影響を簡略化し、迅速性と簡便性を優先させた単純なシステムとして確立されているため、高精度な薬物吸収性予測を行うことは事実上不可能となる。そこで本研究では、高精度な薬物吸収予測を可能にするin vitro小腸絨毛上皮モデルを構築することを目指し、本年度においては、培養デバイスと培養法の改良、モデル細胞の評価に関する詳細な検討を行った。 前年度まで試みていた回転子を利用した検討(回転動作に伴う過剰な加温が原因で断念)や簡易的な灌流を導入した検討からおおよその培養法に検討がついたため、本年度では、従来型のTranswell Insert (12 well)システムのbasal側に血管を模倣した流路を作製し、培養液を一定の流速で灌流することで、モデル細胞 (Caco-2細胞)の物理的刺激環境下での培養と観察を試みた。その結果、顕微鏡下にて、明らかな形態変化が観察され、特に細胞膜の凹凸化が示唆された。また、通常の培養法に比べて顕著に高い細胞膜抵抗値(TEER)が示され、タイトジャンクション形成への影響が推察された。一方、腸分化マーカーであるvillin、排泄型トランスポーターであるP糖タンパク質(P-gp)および粘液構成成分ムチン(MUC)の発現をReal-time PCR法により評価したところ、通常の培養法に比べ有意な差は観察されなかった。 以上、本年度の検討では、灌流培養環境条件下における細胞の形態変化は観察されたものの、タンパク質発現などに大きな変化を観察することはできなかった。今後は、灌流速度の影響などを考慮したより詳細かつ大規模な検討に発展させる予定である。
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