研究課題/領域番号 |
16K15169
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
宮田 卓樹 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (70311751)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 発生学 / 形態形成学 |
研究実績の概要 |
発生・器官形成の原理を研究するには,三次元組織における細胞動態をリアルタイム観察できる手法が有用である.脊椎動物のなかでは,従来,ゼブラフィッシュを用いた研究が真の「in vivo」イメージングを行なってきたが,哺乳類では.組織・器官の培養(explant cultureやslice cultureなど)と蛍光標識とを組み合わせることで,「in vivoに準じた立体的・三次元的な環境下」での細胞の生育・挙動の解析が果たされてきた.申請者も,脳の形成の原理を知るための研究に「スライス培養」を役立て,細胞の本来の形態,立体環境中での挙動を明らかにしてきた.しかし「組織・器官の培養」には,循環系,局所的三次元構造,母胎関係など,いくつかの欠落物がある.こうした種々の「欠落」を回避し,母胎連関を含めた環境因子全般の発生・形態形成への関与を研究する上では,「培養」ではない「完全に生理的」と言えるような次世代型イメージング法が求められる.それが「母体とつながったままの胎仔を羊膜越し・子宮壁越しにライブ観察する手法」である.本研究は,二光子顕微鏡を用いて母体と胎盤でつながったままの胎仔に対するライブ観察系を立ち上げる.「1」胎生期での単数回観察,「2」胎生期の経時的複数回観察,「3」胎生期から生後にかけての追跡観察の手法を,順に構築する.初年度は,「1」について,子宮内エレクトロポレーションを介しての細胞標識によって,一定の進捗を得ることができた.また,「2」「3」に関しての問題点あぶり出しが進行中である. 研究の成果を次の学会で発表した。第39回日本神経科学大会(横浜市)、第39回日本分子生物学会年会(横浜市)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
胎生期単回観察については,予備的取り組みでE14-E15大脳原基に対する観察条件の検討してきたが,それをさらに進め,観察深度を増すように改善・至適化した.母体の麻酔後,子宮に対して筋弛緩,卵巣動脈結紮と間膜切断を施したのち,金属性の台座から伸ばしたネジ式の支持板2枚で観察対象の胎仔を含む子宮部位をはさみ付け,粘土で囲ったスペースに寒天を充満・固化させ,さらに上方からカバーガラスで軽く圧迫するという形式で「胎仔支持」を達成した.さらなる観察深度確保のための改善として,羊水の部分除去やカバーガラスによる上方からの押さえの度合い調整を行った.新型の装置(手製)を複数パターン作成し,胎齢や,子宮内ポジションに応じて胎仔保持の仕方を柔軟に変えられるよう,工夫した.また,E12-E13など若い胎齢での観察のためには保持装置を小型化した.子宮内エレクトロポレーション法で標識した脳原基部位を実体顕微鏡で見いだし,それを二光子顕微鏡での観察に供するための諸手続きの流れを確立することができた.このように一定の成果を上げることができた一方で,母体の呼吸や血流など視野揺動の原因の解明と対策に相当な時間を要したことなどの影響で,胎生期複数回観察と,生後にかけての追跡的観察については,遅れ気味であるので,次年度に重点的に取り組む予定である.
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今後の研究の推進方策 |
初年度には,「単回」観察を念頭に,まず最大の観察深度・分解能を得ることを念頭に,子宮筋層を切開し,羊膜越しに胎仔観察を行なう方針をとった.今後,複数回観察,生後に向けた追跡をめざす上で,できるだけ子宮筋層を維持したままで胎仔組織内のイメージングが果たせるよう,胎齢ごとに諸条件の検討を行う.具体的には,出産のために原則「子宮壁」は維持する予定であるが,子宮壁の厚い胎生早期~中期の観察後に出産をめざす場合など,開窓・再縫合が必要なケースでは「帝王切開→里親による保育」とする. 胎生期観察が胎生後期に行なわれる場合には,深部観察のために,胎仔の表皮・皮下組織・頭蓋骨原基(膜状構造)をいったん「flap」として開いてからまた戻す(表皮部を生体ボンドで接着)という方法をとる.また,胎生後期には,表皮・皮下結合組織の肥厚,頭蓋の軟骨細胞分化から骨化という「脳原基に対する深部観察にとって妨げとなり得る要因」が増す(予備実験結果).そこで「胎生後期2回目観察」時には子宮の開窓と羊膜除去でのライブ観察とし,それで不十分な場合は,胎仔の表皮・皮下組織・頭蓋骨原基(膜状構造)の除去を検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究実施によって浮き彫りになった胎齢に応じた胎仔の脆弱性,母体の呼吸,循環・拍動などによる視野揺動の困難さなどへの対処のために,初年度は,当初の計画よりもやや基本的な諸条件の検討に時間を要した.このため,比較的高価な試薬類を用いて長時間にわたって行なう事が想定されていた複合的な実験群を次年度で実施する事となった.そこで,そうした解析群に関しての予算使用が初年度から次年度へと持ち越しとなった.
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次年度使用額の使用計画 |
初年度に行なった胎生期単回観察実績に立脚し,初年度はほぼ実施できなかった複数回観察,生後への追跡的観察をめざす.それにあたり,子宮筋層や胎仔の結合組織に対するさまざまな微小外科的模索の実施機会を多く確保する.このために初年度ある程度控え気味となったマウス購入を多めにし,諸条件の検討が充分にできるようにする.加えて,追跡的な長時間観察を充分に行なう予定である.こうした長時間観察の増加により,共同利用施設の使用料が,初年以上に多く必要となる事が見込まれる.また,技術補佐員による観察および画像情報の処理・とりまとめ等の補助を見込んでいる.
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