発生・器官形成の原理を研究するには,三次元組織における細胞動態をリアルタイム観察できる手法が有用である.脊椎動物のなかでは,従来,ゼブラフィッシュを用いた研究が真の「in vivo」イメージングを行なってきたが,哺乳類では.組織・器官の培養(explant cultureやslice cultureなど)と蛍光標識とを組み合わせることで,「in vivoに準じた立体的・三次元的な環境下」での細胞の生育・挙動の解析が果たされてきた.申請者も,脳の形成の原理を知るための研究に「スライス培養」を役立て,細胞の本来の形態,立体環境中での挙動を明らかにしてきた.しかし「組織・器官の培養」には,いくつかの欠落物がある.循環系や脳膜・頭蓋など,脳以外の構造・システムの欠如に加えて,「切断」による本来のタテ成分・ヨコ成分のからみ合いや,越境的な細胞移動などへの影響が避けられない.そこで,こうした種々の「欠落」を回避し,母胎連関を含めた環境因子全般の発生・形態形成への関与を研究する上では,「培養」ではない,「完全に生理的」と言えるような次世代型イメージング法が求められる.それが,「母体とつながったままの胎仔を羊膜越し・子宮壁越しにライブ観察する手法」である.さまざまな試行錯誤を通じて,これまでに,胎生E14日目のトランスジェニックマウスノ大脳原基内ミクログリアの動態(脳原基実質から脳膜への移行など)をとらえることに成功している(複数回の学会発表済み.論文投稿準備中).また,子宮内電気穿孔法で特定の蛍光蛋白質を発現させた胎生12-13日目の胎仔の脳原基を観察する系の確立にも取り組んできており,さまざまな留意点をあぶり出すことに成功して来ている.本研究の始まる前にはゼロであった技術的な情報を多く得ることができた.また,生体内とスライスで細胞挙動が異なることを関連論文として報告した.
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