研究課題/領域番号 |
16K15177
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
神谷 温之 北海道大学, 医学研究科, 教授 (10194979)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 軸索 / 海馬 / サブセルラー記録 |
研究実績の概要 |
本研究では、例外的にパッチクランプ法による直接記録が可能な大型の軸索終末を有する海馬苔状線維に着目して、軸索のサブセルラー機能解析システムを構築し、軸索膜のイオンチャンネルの特性や分布について定量的な実験データを集積することと、これらの実験データに基づいた精緻な中枢軸索の興奮性に関する最適化モデルを構築することを目指している。本年度は、まず、マウス海馬スライス標本における苔状線維終末からの直接記録法の妥当性について、苔状線維軸索がGFP蛍光標識されたトランスジェニックマウスを用いて検証した。これまでは、大きさや形状と局在などの形態的な特徴と、起始細胞である顆粒細胞の刺激で活動電位を発生する応答性を指標に、近赤外線微分干渉顕微鏡下で未染色の苔状線維終末を同定してきたが、トランスジェニックマウスで蛍光を指標に同定した苔状終末からも同様に顆粒細胞刺激により全か無かの法則に従う活動電位が記録できることから、従来の記録法の妥当性を確認した。また、ルースパッチクランプ法を用いた単一軸索終末からの細胞外活動電位記録に加えてホールセル記録を可能にし、膜電位やイオン電流の詳細な解析も可能となった。苔状線維軸索では活動電位に引き続き、持続の長い後脱分極が記録された。この後脱分極成分は、今後予定している苔状線維軸索における活動電位の数理モデルの構築に際し、従前のモデルでは検討されていない軸索に特徴的な新知見であり、引き続きそのイオン機構や生理的意義について解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画通りに、研究期間の前半で海馬苔状線維軸索の電気生理学的解析法を確立し、また苔状線維を可視化したトランスジェニックマウスを用いてその妥当性を確認した。また、ルースパッチクランプ法による細胞外活動電位記録に加えて、ホールセルクランプ法による単一軸索終末記録を確立した。以上から、おおむね順調に研究が進捗していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、実験的解析を推進して軸索活動電位の後脱分極のイオン機構と生理的意義の解明を進めるとともに、本研究のもう一つの目標である苔状線維軸索の興奮伝播に関する数理モデルの構築と最適化を推進する。実験データに基づいた中枢軸索の数理モデルは多くないが、パッチクランプ法による電気生理学的解析が進み、軸索膜のイオンチャンネルに関する実験データが蓄積する海馬苔状線維では例外的にいくつかのリアルな興奮伝導モデルが発表され、実験的知見の集積に伴い改良されてきた。これまでにモデルデータベース上の最新のモデルに基づいた活動電位シミュレーションを当研究室でも再現し、これまでのモデルでは検討されていない後脱分極成分の導入を含め、モデルの改良を行う。この新規モデルの妥当性について、実験で得られた知見を定量的に再現できるかについても検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、単一軸索終末からのサブセルラー記録の手法を確立し、手技的な難易度の高いホールセルクランプ法の条件検討を行うために基礎的な実験に時間を費やし、スライス電気生理実験のための消耗品を中心に、予定より少額の出費となり、次年度使用額が生じた。サブセルラー解析のためのuncaging実験などの高額な薬物を用いる実験が次年度に持ち越したため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
サブセルラー解析のためにuncagingによる局所刺激実験を進め、caged化合物など高額な試薬の購入を予定している。また、シミュレーションを効率化するためのコンピューター購入や、成果発表のための旅費などに使用する予定である。
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