本研究では、我々が発見した電位依存性ATP放出イオンチャネルサブユニットCalcium Homeostasis Modulator 1(CALHM1)およびCALHM3の機能を基盤とした感覚情報伝達機構を、独自の遺伝子改変動物ツールを用いて微視的かつ包括的に探索・解明を目指した。本年度、CALHM3ノックアウトマウスをもちい、甘味・苦味・うま味の認識を担う味蕾細胞からの神経伝達物質放出経路の分子実体がCALHM1とCALHM3によって構成されるヘテロ6量体CALHM1/CALHM3チャネルであることを突き止めた。この研究の中で、CALHM3はCALHM1によって作られるイオンチャネルの活性化速度を上げ、活動電位によって活性化するために必須の働きをしていることが明らかとなった。さらに、抗マウスCALHM1抗体をもちいてCALHM1/CALHM3によって構成される味蕾細胞シナプスの構造を明らかにした。細胞内小器官とCALHMチャネル、神経終末が精巧な空間配置を取るシナプス小胞をもちいない特殊なイオンチャネルシナプスの存在を明らかにした。さらに、CALHMチャネルサブユニットが極性細胞において側底膜に選択的に輸送されるシグナル配列が存在することも突き止め、CALHMチャネルシナプスの構成分子、局在を明らかにするとともに、その形成原理の一端を明らかにすることができた。 一方、独自に開発したノックインマウス系統、CALHM1-V5-IRES-CreおよびCALHM3-tdTomatoをもちいて、これまでCALHMチャネルの発現が知られていなかった感覚受容器細胞におけるCALHMサブユニットの発現を見出している。 以上の研究成果はCALHMチャネルによる感覚伝達機構に関する新たな研究分野の萌芽であると考える。
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