研究課題/領域番号 |
16K15182
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
矢田 俊彦 自治医科大学, 医学部, 教授 (60166527)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | インスリン感受性 / 細胞情報伝達 / 弓状核 / 室傍核 / 視交叉上核 |
研究実績の概要 |
末梢ホルモンは血液脳関門(BBB)を通過して視床下部に作用し、脳機能(摂食、情動、記憶)と全身機能(代謝、循環、生殖)を制御しており、その変調が肥満などの疾患に関わると考えられる。末梢ホルモンはBBB通過の際1/1000以下に低下し、脳内レベルは10-13Mであり、この超微量ホルモンが脳で機能を発揮する機構は不明である。本研究は、視床下部神経によるインスリンの超高感度受容機構の一端を明らかにすることを目的とした。 インスリンは膵島細胞から分泌され、微量が脳に入り、視床下部室傍核(PVN)などの中枢に作用し、生理機能(摂食・糖代謝・生殖など)を調節する。しかし、これらのインスリン作用を仲介するPVNニューロンは同定されていない。本研究は①PVNにおけるインスリン標的ニューロンの同定、②インスリンによる標的ニューロン活動調節とその濃度依存性の解析、および、インスリン超高感度受容の検証、③インスリンの超高感度受容と生理機能発現における、インスリンシグナル伝達 ‘PI-3kinase‐PDK1’カスケードの役割の解析を目的としている。平成28年度は以下の結果を得た。 (1)単離PVNニューロンの細胞内Ca濃度測定とその後の免疫組織化学的細胞同定の結果、インスリン添加はPVNニューロンを活性化し、そのうちオキシトシン含有ニューロンの割合が大きく、主要な標的ニューロンであることが判明した。 (2)インスリンシグナリングに重要なPI-3kinaseの下流分子であるPDK1に着目し、PVNオキシトシンニューロン特異的なコンデイショナルPDK1ノックアウトマウスを作製した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)弓状核:弓状核とラフトの課題に関しては、以下の理由から中止した。すなわち、Caveolin細胞内局在の正確な評価が容易でなかった。さらにPVNの課題が予想以上の展開を示したことから、そちらにより多くの研究時間を注ぐこととした。 (2)室傍核:①単離PVNニューロンの細胞内Ca濃度測定とその後の免疫組織化学的細胞同定の結果、インスリン添加はPVNニューロンを活性化し、そのうちオキシトシン含有ニューロンの割合が大きく、主要な標的ニューロンであることが判明した。②インスリンシグナリングに重要なPI-3kinaseの下流分子であるPDK1に着目し、PVNオキシトシン特異的なコンデイショナルPDK1ノックアウトマウスを作製した。 (3)視交叉上核(SCN):マウスでは、明期に摂食が抑制され、摂食概日リズムが形成される。この機序として、光照射が‘SCNバゾプレシンーPVNオキシトシン神経回路’を活性化して摂食を抑制することを見出し、論文発表(Am J Physiol)した。
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今後の研究の推進方策 |
室傍核:①インスリンによるオキシトシンニューロン活性化とその濃度依存性を詳しく解析し、オキシトシンニューロンの超高感度インスリン受容を検討する。②オキシトシンニューロン特異的なPDK1ノックアウトマウスを用いて、上記のインスリンによるオキシトシンニューロン活性化とその濃度依存性がいかに変化するかを解析し、オキシトシンニューロンの超高感度インスリン受容におけるPI-3kinase‐PDK1シグナルの役割を検討する。 視交叉上核:SCNバゾプレシンーPVNオキシトシン神経回路は食餌によっても活性化されることをも見出しており、インスリンがこれを仲介する可能性が考えられる。そこで、①SCNバゾプレシンニューロンによる高感度インスリン受容を検討する。②高感度インスリン受容と摂食リズムとの関連を探るため、摂食リズムの障害を呈する高脂肪食負荷マウスにおいて高感度インスリン受容が障害されているかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在までの進捗状況のとおり、PVNの課題が予想以上の展開を示したことにより、新たな試薬などが必要になったため。
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次年度使用額の使用計画 |
実験に必要な試薬と動物購入、また、論文投稿にかかる費用に使用する予定である。
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