研究課題
近年、記憶・学習を担う「シナプス」を制御する分子として、細胞接着型Gタンパク共役受容体 (Adhesion-GPCR, ADGR) が注目されている。ADGRは種々の機能ドメインを有する細胞外領域と、GPCRに共通な7回膜貫通部位およびGタンパクと結合する細胞内領域からなるユニークな分子であるが、シナプスでどのように働いているかは不明な点が多い。私たちは最近、ADGRファミリーに属する脳特異的血管新生抑制因子3 (BAI3) が、運動記憶を担う小脳のプルキンエ細胞に発現し、延髄下オリーブ核登上線維 (CF) 間で形成されるCFシナプスの形態・機能に重要であることを明らかにした (Kakegawa et al., Neuron, '15)。そこで本研究では、ADGRによる普遍的かつ新しいシナプス形成・機能制御機構の理解をめざし、CFシナプスおよび運動記憶を制御するBAI3の活動様式を追究する。本年度は、成熟期小脳において完成されたCFシナプスでのBAI3の役割について解析を行った。具体的には、プルキンエ細胞選択的にBAI3発現を欠くコンディショナルKO (BAI3-cKO) マウスを用い、成熟期でのCFシナプス様式を観察すると、CF上に形成されるシナプスの数が野生型マウスに比べて激減し、それに伴って、CFの支配領域が顕著に退縮していることが分かった。次に、成熟した野生型マウスのプルキンエ細胞に発現するBA3をRNA干渉法により急性除去すると、BAI3-cKOマウスで観察された異常表現型が認められた。さらに、成熟BAI3-cKOマウスのプルキンエ細胞に外来的にBAI3遺伝子を導入すると、cKOマウスに見られた異常表現型が劇的に改善された。以上の所見は、成熟期において完成されたCFシナプスの維持および改変過程にBAI3が深く関与していることを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
昨年度は、完成された小脳シナプス回路においてBAI3がどのように関与しているかを解析し、新たな所見を得ることができた。この事象は、他のADGRファミリーにおいても同様に観察される可能性が高く、本成果がADGRファミリーの普遍的動作原理を理解するための手掛かりになりうるものと考えている。そのため、本研究課題は、現時点で「おおむね順調に進展している」と言える。
今後は、シナプス形態や機能を制御する新規BAI3シグナリングの詳細について明らかにしていきたい。
本年度は、当該研究課題に加え、基盤Bからの予算を頂きつつ、研究を進めてきた。両課題ともに研究内容は大きく異なるが、いくつかの実験手法は共通している。そのため、本年度で終了する基盤Bからの予算を優先的に使用させて頂いた。
本年度の残額については、次年度に計画している実験のための費用(おもに消耗品)に充てる予定でいる。それによって、より効率的かつ生産的に実験を進められるものと期待している。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件) 図書 (2件) 備考 (1件)
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http://www.yuzaki-lab.org/