本研究の最終目標は極めて予後不良な若年発症の拡張型心筋症(DCM)に対する根本的治療法を開発することにある。そこで「変異型トロポニンTは 正常遺伝型トロポニンTの過剰発現によって置換し得る」という仮説を、若年発症型DCMモデルマウスを使って検証した。さらに若年型DCMマウスの極めて初期段階での心筋の構造的・機能的異常を経時的に調べ、若年段階で進行性の病態形成に働くシグナル分子や調節機構の同定を目指し、以下の研究成果を得た。 1)ΔK210-KIマウスにおける周産期心筋障害の解析:これまでの結果を踏まえて、ヒト若年型DCMと同様の表現型を有すると考えられるトロポニンTアミノ酸変異(ΔK210)ノックインマウス(ΔK210-KI)(ヘテロ型、ホモ型)と野生型マウスにおいて、その表現型をさらに詳細に調べた。ホモ型では生直後から心重量の増加が認められるが、この時点ではANFなど心不全マーカーの発現変化は認めなかった。生後1週での心エコー検査によるホモ型ΔK210-KIマウスでの有意な心拡大や機能低下及びANF発現量増加は、心不全がこの時期に進行することを示唆し、その要因探索の重要性が明らかとなった。また、ヘテロ型に関しては、生後1週間までに野生型と比べ目立った変化は認めなかった。 2)ΔK210-KIマウス生体へのヒト正常型トロポニンT置換実験(成獣への導入):心筋に特異的遺伝子発現をするalphaMHCプロモーターを使い、野生型トロポ ニンTの過剰発現マウスを作成した。野生型トロポ ニンTの過剰発現マウスに心機能の変化など正常型に比して有意な変化を認めなかった。 現在、この過剰発現マウスをΔK210-KIマウスと交配し、心筋症の発症に関しての影響を観察中である。ΔK210-KIマウスは若年発症型DCMのモデルとして有用であり、心筋症遺伝子治療を開発してゆくための良いモデルとなる。
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