研究実績の概要 |
私はうつ病の病因には概日リズム不全が関係しているとの考えから、1991から時計遺伝子を発見することを目指したプロジェクトを開始し、新規のbHLH-PAS型転写因子を発見、BMAL1 と命名(Ikeda & Nomura, Biochem Biophys Res Commun 1997)して報告した。死後脳研究では背外側前頭前野(DLPFC)や前帯状皮質で、時計遺伝子の概日リズム性の発現が減弱化していたとの報告(Li et al, PNAS 2013)があり、うつ病に脳レベルで概日リズムの不全のあることが明らかにされた。このような背景にたって、本研究では気分障害にみられるリズム不全は、SCNやDLPFCなどのうつ病責任領域の「リズム発振不全」や、SCNから、室傍核(PVN)やDLPFCなど脳内各領域への「リズム指令(出力)不全」による同調不全によって惹起されるのではないかという仮定を設定した。本研究の最終目的は、特に「リズム指令不全」に着目し、SCNからの出力ニューロンの機能をCRISPR法による遺伝子(編集)操作で改変し、この操作で得られたリズム指令不全マウスの、行動、認知、情動への影響を解析して、「リズム指令不全仮説」を検証することに設定した。研究では先ずリズム指令不全を形成させるための候補となる遺伝子を選択し、それらの遺伝子をゲノム編集によって機能低下させ、細胞レベルでリズム不全を惹起できるかどうかを検討した。検討に用いたのは、対照として時計遺伝子Bmal1、モデル遺伝子として選択したのは振幅を上昇させることを他のプロジェクトで見いだしているSRC1である。時計遺伝子であるBmal1をゲノム編集で破壊した細胞のリズムはほぼ消失した。SRC1のゲノム編集ベクターを導入した細胞は、Bmal1およびPer2プロモーターリズムの振幅を低下させることが示された。
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