2016年度はストレスに伴う不安や興奮に関連する脳内ノルアドレナリンの変動を解析したが、本年度はストレスを緩和する方向に作用することが知られているセロトニン系に関しての解析を実施した。その結果、ストレス負荷によって大脳皮質内のセロトニン(5-HT)含有量は変化せず、セロトニン代謝物(5-HIAA)の含有量および5-HIAA/5-HT比はストレスによって増加すること確認された。脳組織内で5-HIAAの含有量が増加することはシナプスでセロトニンの放出が亢進していることを示すと考えられる。一方、ストレス負荷をしても12-HETEが生成されない12-リポキシゲナーゼ欠損マウスの大脳皮質においても5-HIAAの含有量および5-HIAA/5-HT比は増加しており、この傾向はセロトニン含有濃度の高い視床下部でも同様の傾向であった。また、2016年度に行った12-HETEレセプター阻害剤の投与実験においても、12-HETEレセプター阻害剤はストレスに伴うセロトニンの放出には影響していなかった。以上の結果から、ストレスによって増加する12-HETEはノルアドレナリンの放出を誘導するが、セロトニン系には影響しないことが明らかとなった。 2016年度の結果と合わせて、ストレスによって活性化された12-リポキシゲナーゼを介して生成される12-HETEは12-HETEレセプターを刺激することで脳にストレスシグナルを伝達し、脳組織(大脳皮質や視床下部)でノルアドレナリンの放出が亢進し、その結果としてマウスの逃避行動が増加することになったことが推察され、我々の提唱する新規ストレス伝達経路に関する重要な知見を得ることができた。
|