研究課題/領域番号 |
16K15198
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
下川 宏明 東北大学, 医学系研究科, 教授 (00235681)
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研究分担者 |
佐藤 公雄 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 准教授 (80436120)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 循環器・高血圧 |
研究実績の概要 |
スタチン発見から40年。あらゆる心血管病における有効性が基礎的・臨床的研究で明らかにされた。しかし、そのコレステロール低下作用によらない心血管保護効果(多面的作用)の本質は未だに解明されていない。我々は最近、スタチンの多面的作用の原因解明研究の結果、SmgGDSを同定した(ATVB 2013)。さらにスタチンは、心筋線維芽細胞からのSmgGDS分泌を促進し、Rac-1/Rho-kinase/ERK活性を抑制すると共に、炎症性サイトカインの分泌低下を引き起こすことを報告した(Hypertension 2016)。従って、スタチンで誘導・分泌されるSmgGDSは、心血管病発症の抑制機構を担うことから、新たな治療標的および創薬ターゲットとしても期待できる。このように本研究では、スタチンによる新規炎症制御蛋白SmgGDSを介した多面的作用の制御機構についての検証を進めている。このように、スタチンに関する一連の基礎的・臨床的研究により、スタチンの心血管病に対するコレステロール低下作用に依らない多面的作用の原因分子の一つとして、SmgGDSを同定し、その機能解析が進行中である。具体的には、SmgGDSはスタチン依存性に主に血管内皮より産生・分泌され、Rac1抑制を介して抗炎症効果を発揮するすることが分かってきた (Cardiovasc Res. 2016)。さらに、SmgGDSはRho-kinase/ERK1/2を抑制し、様々な炎症性サイトカインの産生・分泌を抑制することから、多くの心血管疾患の進行に重要な役割を有する可能性が示唆される。本研究では、これまで全く解明されていない、SmgGDSによる心血管病発症抑制機構を、組織特異的欠損マウスと過剰発現マウスを用い、各種の心血管病モデルを作成し、動物レベルで詳細な検証を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、新しい心血管病抑制蛋白SmgGDSの内皮機能保護機能や心血管病抑制における意義について基礎的・臨床的研究を進めている。特に、スタチン刺激により細胞外に分泌されるSmgGDSに血管内皮や心血管組織の保護作用があるか否かを検討するために、当科で開発済みである遺伝子欠損マウスや過剰発現マウスを用いた検証を進めている。細胞内SmgGDSはRac1抑制作用を有する一方で、細胞外SmgGDSも線維芽細胞増殖やMMPの抑制に重要な役割を有することが判明した。さらに、スタチン依存性に分泌されたSmgGDSは、未知の細胞外受容体もしくは機能蛋白修飾を介して動脈硬化プラーク破綻や大動脈瘤破裂を抑制する可能性があることが示された。Rac-1/Rho-kinase依存性に心血管組織から産生・分泌される各種の炎症性サイトカインは、血管内皮において、接着因子発現や炎症細胞浸潤、アポトーシス等、内皮機能を障害する。我々は、細胞内SmgGDSがRac1分解を促進することを証明し、SmgGDSは細胞外へも分泌され、直接もしくは間接的な受容体阻害により、細胞外からもRac1やRho-kinaseを抑制することを確認した(Hypertension 2016)。また、Rho-kinase活性化は酸化ストレス増幅蛋白Cyclophilin A (CyPA)の分泌を促進することを我々は示してきたが、スタチンはSmgGDS分泌促進とは逆に、CyPA分泌抑制することが判明した。従ってSmgGDSは、Rho-kinase/CyPA系とは拮抗することが示唆している。実際、Rho-kinase/CyPA系は血管平滑筋増殖作用や炎症細胞浸潤作用のみならず、血管内皮障害作用が示されており、SmgGDSとは全く相反する作用を示すことから、それぞれ、それらのバランスが内皮機能の恒常性維持に貢献している可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
(A)スタチンのSmgGDS誘導・分泌促進による心血管病抑制機構(動物実験) 1. Rac1およびRho-kinaseは多彩な細胞内シグナル伝達機構の要にある重要分子であり、スタチンの多面的作用の機序の一つにSmgGDSによるRac1/Rho-kinase抑制を発端とした炎症性サイトカイン分泌低下とそれらの細胞外受容体阻害による内皮機能保護効果の関与が想定される。2. SmgGDS欠損マウス及び過剰発現マウスを用いることで、in vivoでのスタチン作用の制御機構の詳細な解析が可能である。特に酸化ストレス活性を制御するRac1制御機構の解明により、SmgGDSのRac1抑制による血管恒常性維持機構が明らかになる。 (B)ヒト冠動脈血管内皮細胞におけるSmgGDSとRho-kinase/CyPAの相互作用 1. ヒト冠動脈血管内皮細胞を用いた細胞外SmgGDS刺激による、Rac1抑制機構にRho-kinase/CyPA系がどのように関わるかを解明する(細胞実験)。2. 細胞外SmgGDSのヒト冠動脈血管内皮細胞への受容体阻害機構の解明(細胞実験) (C)動脈硬化病理組織の病理学的検討 1. スタチンによるプラーク破綻や二次予防効果にSmgGDSによる血管内皮保護効果があることを確認する目的でSmgGDSの冠動脈病変での病理学的意義を解明する(免疫学的手法)。2. ヒト冠動脈を用いた免疫染色では、動脈硬化不安定プラークでのRac1発現が亢進していることが確認されており、スタチンによる血管内皮SmgGDS誘導や細胞外SmgGDSによるMMP活性化抑制機構を病理学的に評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者および研究協力者の海外学会への参加を予定していたが、学内での研究実施を優先し、旅費を削減することができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
国内および海外学会へ積極的に参加して研究発表を行う予定であり、平成29年度予算と併せて執行をする。
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