本研究は、がんの骨転移を抑えるための新たな創薬標的として破骨細胞に注目する。近年、我々は、破骨細胞制御におけるエピジェネティクスの重要性を見出し、さらに新たに探索した当該制御に対する阻害化合物を用いることで、破骨細胞形成を直接的に抑制し、骨粗鬆症治療を可能にすることを実証した(Nature Medicine 2015)。そこで、本研究では、がんの骨転移治療に対する本薬剤の有効性を明らかにすることを目的とする。これによって、『破骨細胞のエピゲノム創薬』をがん治療薬開発における新たな基盤研究として発展させることを目標に掲げる。 本年度は、昨年度に樹立したがんの骨転移モデルを用いて、DNAメチル化制御の阻害剤TF3によるがんの骨転移抑制の是非を検討した。マウス悪性黒色腫細胞(B16BL6細胞)を左心室に移植後、当該マウスに対してTF3を経日投与したところ、骨組織内に生着するB16BL6細胞がTF3非投与群と比べて減少することが明らかとなった。以上の結果から、TF3はB16BL6細胞の骨転移を抑制する効果があることが示唆される。近年、がんの発症には、異常なDNAメチル化が関係することが知られている。実際、B16BL6細胞に対してTF3を処理したところ、B16BL6細胞の細胞増殖能が有意に抑えられることが明らかとなった。そこで、TF3がもつB16BL6細胞の骨転移抑制効果が、B16BL6細胞に対する増殖抑制能を介しているかどうかを生体レベルで明らかにするために、TF3の抗腫瘍活性を検討した。マウスの皮下にB16BL6細胞を移植し、TF3を経日投与したところ、腫瘍に対する増殖抑制効果は観察されなかった。以上の結果からTF3がもつ骨転移抑制効果は、破骨細胞抑制を介して発揮されることが考えられる。
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