研究課題/領域番号 |
16K15204
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
香月 博志 熊本大学, 大学院生命科学研究部(薬), 教授 (40240733)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 好中球 / 脳卒中 / 神経保護 / 炎症性サイトカイン |
研究実績の概要 |
本研究は、がん病態において提唱されている好中球の基本フェノタイプを手がかりとして、異なる好中球フェノタイプによる脳卒中病理制御効果をin vitroで評価する実験系を構築し、好中球フェノタイプ極性化の制御を介して脳卒中病理を抑制する化合物を見出すこと、および当該化合物の効果をin vivo脳卒中病態モデルで検証し、新規の薬理特性を有する神経保護薬開発のための戦略を確立することを目指している。今年度はまず、in vitroでの好中球-脳組織間相互作用の評価系を構築に向けた基礎検討を行った。DMSO刺激により好中球様に分化させた白血病細胞株HL-60細胞にリポ多糖を処置することにより、IL-1βおよびIL-12等のサイトカインmRNAの発現が増大することを確認した。また、脳組織由来の脂質性生理活性物質である2-アラキドノイルグリセロール (2-AG)がHL-60細胞におけるこれらサイトカインmRNA発現に対して抑制的に作用すること見出した。現在、2-AGの作用についてより詳細に検討を進めるとともに、ラット大脳皮質-線条体培養組織切片とHL-60細胞との共培養系を用いて、培養組織切片に興奮毒性刺激を与えた時のHL-60細胞におけるN1型・N2型サイトカイン発現プロファイルの変動についても解析を進めている。In vivo実験系については、マウス脳出血病態モデルにおいて好中球走化因子であるロイコトリエンB4の脳内レベルが増加すること、ロイコトリエンB4シグナルの遮断が脳組織への好中球浸潤を部分的に抑制するとともにマウスの運動機能障害を著明に改善することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の軸となるin vitro好中球-脳組織間相互作用の評価系の構築については、検討がほぼ予定通り進行しており、当該相互作用に基づく薬効薬理評価の検討を開始したところである。併せて、好中球様細胞単独培養系での薬効評価もこれまで順調に進めてきており、両実験系で得られた結果を比較することによって精度の高い薬効評価を実施できる体制が整ってきている。
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今後の研究の推進方策 |
1)好中球フェノタイプの制御を介して脳病理抑制効果を発揮する化合物の探索:種々の化合物を処置した好中球/HL-60細胞を、脳卒中病態を模倣した培養脳組織切片に添加し、神経細胞死抑制効果を指標として薬理活性を評価する。神経保護活性が示された化合物に関しては、好中球にどのようなフェノタイプを誘導するのかについて、あらためて一連の細胞表面抗原およびサイトカイン群の発現プロファイルを調べることで明らかにする。この時、N1型およびN2型を誘導するIFNβおよびTGFβを好中球に作用させた場合とのマーカー群の発現プロファイルの相違を明らかにする。また、脳組織切片への適用前の好中球フェノタイプマーカー群の発現プロファイルに加え、脳組織切片への適用後のマーカー群の発現プロファイルも解析する。これらの検討により、中枢神経疾患病理制御と関連した好中球フェノタイプの分類に関する基礎知見を得る。 2)好中球フェノタイプ制御化合物のin vivo薬理活性の検証:上記のin vitroでの探索により同定した活性化合物について、マウスのin vivo脳卒中モデルにおける有効性を検証する。循環血中での好中球への作用を期待し、化合物は静脈内に投与する。脳卒中後に生じる運動機能障害の程度をビーム歩行試験および改変型四肢配置試験で調べ、活性化合物による改善効果の有無を検証する。また、脳卒中惹起から一定時間後の脳組織を回収し、組織内の病理変化(特に神経細胞死、および好中球の浸潤数やフェノタイプの変化)について検討する。
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