本研究は、がん病態において提唱されている好中球の基本フェノタイプを手がかりとして、異なる好中球フェノタイプによる脳卒中病理制御効果をin vitroで評価する実験系を構築し、好中球フェノタイプ極性化の制御を介して脳卒中病理を抑制する化合物を見出すこと、および当該化合物の効果をin vivo脳卒中病態モデルで検証し、新規の薬理特性を有する神経保護薬開発のための戦略を確立することを目指した。好中球-脳組織間相互作用のin vitro評価系の構築については、DMSO刺激により好中球様に分化させた白血病細胞株HL-60細胞をラット大脳皮質-線条体培養組織切片と共培養し、脳出血病態を模した条件として血中プロテアーゼであるトロンビンを処置した後のHL-60細胞および脳組織でのサイトカイン発現変化と組織傷害の関係について検証した。その結果、培養脳組織の共存下では好中球様HL-60細胞におけるIL-1β(N1型サイトカイン)発現が増大し、IL-10(N2型サイトカイン)の発現は逆に減少した。一方で、トロンビン処置により誘発される培養脳組織内の細胞傷害は、好中球様HL-60細胞の共存下では抑制された。これらの知見は、好中球―脳組織間の相互作用が好中球フェノタイプの調節を伴って脳出血病態を制御し得ることを示唆している。In vivoについては、人口の高齢化とともに発症件数が近年増加している皮質下出血に着目し、そのマウス病態モデルを作出した。また、最も一般的な脳出血病態である被殻出血のモデルにおいて好中球浸潤を抑制することが示されているニコチンが、皮質下出血モデルにおいても神経保護効果および抗炎症効果をもたらすことを明らかにし、好中球の制御が異なるタイプの脳出血病態に対しても有効な治療戦略となる可能性を提起した。
|