研究実績の概要 |
心臓の難病である心筋症は心筋の変性や肥大を肉眼的特徴とするが、病態の本質は細胞内の遊離Ca2+の調節異常にある。心筋細胞内に存在する筋小胞体から放出されるCa2+が筋原線維を収縮させるが、Ca2+の調節異常はCa2+自体の代謝にとどまらず、Ca2+の濃度上昇を阻止するような防御機構の破綻でも起きうる。 本研究は、こうした独自の視点から心臓病の進展・増悪の機序を解明するために、研究シーズとして突然変異で心筋症を発症するハムスターを用いる。心筋症ハムスターには、心筋拡張の著明なTO-2と心筋肥大の著明なBIO14.6など、様々な亜系統が存在する。我々は、先にその共通の遺伝的原因がδ-サルコグリカン(δSG)の欠損であることを明らかにしており、本研究ではTO-2やBIO14.6におけるその他の遺伝子異常の解明を通じて心臓病の増悪メカニズムの理解を深めることを目的とする。 我々はBIO14.6ハムスターはβB1-クリスタリン(βB1)も欠損することを見出し、βB1が単独で欠損するハムスターの創出を目指した。BIO14.6と正常ハムスターはδ-サルコグリカン(δSG)とβB1遺伝子に関して異常ホモ(-/-, -/-)と正常ホモ(+/+, +/+)であり、第1世代で全例がヘテロ(+/-,+/-)の個体を得た。第2世代では、δSGが(+/+)になる確率は1/4、かつβB1が(-/-)になる確率は1/4 x 1/4 = 1/16、それが♂あるいは♀である確率は1/16 x 1/2 = 1/32であると予想したが、ほぼそのような結果であった。そして、この♂と♀を交配させた第3世代で、予想通り全例で(+/+, -/-)の個体を得た。 今後は、今回創出したβB1-クリスタリン欠損ハムスターを用い、βB1-クリスタリンによる心筋内Ca2+の濃度調節と心臓病の進展における役割を解明していきたい。
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