研究課題/領域番号 |
16K15210
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
徳永 文稔 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 教授 (00212069)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 酵素 / タンパク質 / 細胞・ 組織 / バイオテクノロジー / 生体機能利用 |
研究実績の概要 |
本研究で我々は、「炎症・免疫シグナルを制御する新規脱ユビキチン化酵素(DUB)の同定と阻害剤探索」として、ヒト全93種のDUBから炎症・免疫シグナルに重要なNF-κBとインターフェロン(IFN)産生経路の制御に関わるものを同定することを目指した。特に、LUBACによる直鎖状ユビキチン鎖生成を介したNF-κB活性化に対して抑制的に働くDUBを重点的に研究するとともに、同定されたDUBに対する阻害性化合物を探索し、生化学・細胞生物学的に解析することを目的とした。 本年度の研究成果として我々は、アポトーシス惹起時にLUBACの活性中心サブユニットであるHOIPがカスパーゼによって特異的に限定分解を受け、N末端領域ではNF-κB活性を抑制するDUBであるOTULINやCYLD-SPATA2複合体に結合し、基質であるNEMOやFADDの脱ユビキチン化を亢進することを見出した(Goto E. & Tokunaga F., BBRC, 2017)。カスパーゼによる限定分解で派生するC末端領域はユビキチンリガーゼ活性を保持するので、全般的に脱ユビキチン化が促進する点は興味深い。また、直鎖状ユビキチン鎖結合性タンパク質であるoptineurin(OPTN)のNF-κB活性抑制、アポトーシス制御、直鎖状ユビキチン鎖結合性喪失と筋萎縮性側索硬化症発症との関連を解明した(Nakazawa S. et al., Nat. Commun., 2016)、 さらに我々は、直鎖状ユビキチン鎖を特異的に分解するOTULINに対する阻害剤を探索し、共通構造を持った4つの化合物を同定した。これらは少なくともin vitroではOTULINの活性を抑制することを突き止めた。今後、より詳細な細胞レベル、個体レベルでの機能解析を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、本研究に関連して上記のBBRC (2017)に加えてNature Communications (2016)など6編の原著論文発表を行った。これらを通して、NF-κBを中心とする炎症・免疫シグナルを制御する直鎖状ユビキチン修飾の生理的・病理的役割の解明を進めることができた。また、28年度の研究からOTULINに対する新規阻害剤も同定されており、29年度により詳細な研究進展が期待できるため、本研究は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度には、平成28年度の研究成果を更に発展させ、次の解析を行う。 I. 免疫・炎症シグナル制御に関わる新規DUBの生理機能 ①平成28年度のスクリーニングから同定される炎症・免疫シグナル制御性DUBの生理機能を明らかにするため、Cas9/CRISPR法によりノックアウト細胞・マウスの作製に着手する。②得られたKO細胞・マウスを用いて、NF-κB、MAPキナーゼ、IFN産生シグナル、リンパ球やマクロファージなどの数・機能、生化学的数値、全身的な表現型を解析する。平成28年度の研究と併せて、新規DUBの生化学、細胞生物学、in vivoでの役割が解明される。 II. DUBインヒビターの探索と展開 ①OTULINインヒビターに関しては、共結晶構造解析を進め、化合物による直鎖状ユビキチン結合やOTULIN阻害の分子基盤を明らかにするとともに、より選択的で阻害能の高い化合物をモデリングし、創薬シーズとしてブラッシュアップする。化合物のコア構造と生理機能に関して知財獲得を目指す。②OTULINインヒビターのがん転移や病態モデルマウスへの影響を明らかにするため、まず候補化合物をマウス(B6や免疫不全マウス)に投与した場合の毒性を確認し、がん細胞株を免疫不全マウスに異種接種した場合の腫瘍形成に与える影響を検討する。関節リウマチ(SKGマウスなど)やSLE(CD72欠損マウスなど)の自己免疫疾患モデルマウスを用いて、候補化合物を投与した場合の病態発現への影響を明らかにする。③平成28年度の研究から同定された新規炎症・免疫シグナル制御性DUBの阻害剤を化合物ライブラリーからアルファスクリーン法にて探索する。得られた化合物については、先行するOTULINインヒビターと同様に生化学・細胞生物学的解析を行い、モデルマウスを用いた疾患への応用を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
28年度は、7月に研究室の異動があったことや、主にin vitroレベルでの研究を進めたため、当初の計画より少額で研究を進展することができた。研究成果の遅延はなく、当初の研究目標はおおむね達成できたと考えている。次年度の消耗品購入費が予定より多く必要になると考えられ、次年度に活用する。
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次年度使用額の使用計画 |
29年度では研究の進展に伴って、細胞レベルでの研究を行うと伴に、免疫不全マウスなどモデル実験動物を使用する予定であり、これらの高価な消耗品購入のため前年度の経費を合わせて使用する。現在のところ、実験期間については延長の予定はなく、他の経費の増額や備品の購入はない。また、今年度中に全額を使用し、研究目的の達成を図る。
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