研究課題/領域番号 |
16K15215
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
縣 保年 滋賀医科大学, 医学部, 教授 (60263141)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | がん免疫細胞療法 / T-iPS細胞 / T細胞受容体(TCR)遺伝子 / TCR-iPS細胞 / ゲノム編集 / CRISPR/Cas9 / カセット交換法 / Cre/loxP |
研究実績の概要 |
近年、T細胞を用いたがん免疫細胞療法が精力的に開発されて来たが、これまでの方法では患者のT細胞をがん抗原で刺激しても十分に増やすことができないため、効果は限定的であった。我々の共同研究者である京都大学の河本 宏教授らは、がん抗原特異的なT細胞からiPS細胞を作製し(T-iPS細胞)大量培養したのち、T細胞へ分化誘導することにより、がん抗原特異的キラーT細胞を再生することに成功した。しかしながらT-iPS細胞を作製するには、T細胞に山中因子を導入し長期培養する必要があり、時間と手間がかかることや、得られたT-iPS細胞がT細胞へ分化しづらくなるなど、品質にばらつきが生じるといった問題があった。そこで我々は、がん抗原特異的なT細胞からT細胞受容体(TCR)遺伝子をクローニングし、高品質のiPS細胞にレンチウイルスを用いて直接遺伝子導入を行い、TCR遺伝子導入iPS細胞(TCR-iPS細胞)を作製することに成功した。 一方、TCR-iPS細胞から分化誘導したT細胞では、TCRの発現レベルが元のがん抗原特異的T細胞と比較するとやや低いことがわかった。またレンチウイルスを用いた遺伝子導入では、挿入によるがん化のリスクを完全に否定できない。そこで本研究では、ゲノム編集とカセット交換法を用いて、高品質なiPS細胞の内在性TCR遺伝子座へがん抗原特異的TCR遺伝子をノックインする。それにより、TCRの生理的な発現時期と高い発現レベルを再現し、活性の高いがん抗原特異的キラーT細胞を、短期間で効率よく再生することを目的とする。薬剤耐性遺伝子カセットをノックインした高品質なiPS細胞がひとたび作製できれば、カセット交換法により未知変異抗原に反応するTCR-iPS細胞を次々に作製することが可能であり、細胞製剤として早期の治療応用も期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まずWT1がん抗原特異的なキラーT細胞クローンから単離したTCRαとTCRβ遺伝子を、p2Aペプチドでつないだ融合遺伝子としてレンチウイルスベクターに挿入し、iPS細胞に直接遺伝子導入を行った。得られたTCR-iPS細胞をT細胞へ分化誘導し、再生したT細胞が機能的ながん抗原特異的TCRを発現することや、がん抗原特異的にがん細胞を傷害する活性を有することを確認した。 次にゲノム編集とカセット交換法を用いて内在性TCRβ遺伝子座へTCRα/β遺伝子をノックインすることを試みた。まずHygromycin耐性遺伝子を発現するカセットを作製し、その上流に5’アーム、下流に3’アームを付加したターゲティングベクターを構築した。次にアームの内側にニックを導入するCRISPRガイドRNAを設計し、Cas9ニッカーゼ(Cas9n)と共発現するベクターを構築した。iPS細胞ではT細胞へ分化誘導しないとTCRが発現しないので、まず実験系を確立するために、T細胞性白血病由来のJurkat細胞を用いて、再構成しているTCRβ遺伝子座へノックインを試みた。Jurkat細胞にターゲティングベクターとCRISPR/Cas9nベクターを導入し、Hygromycinで選択し複数のクローンを得た。そのうち正しくノックインされたクローンが得られ、ノックインの結果TCRの発現が消失していることも確認された。 次にWT1がん抗原に特異的なTCRαとTCRβ遺伝子をp2Aでつないだカセット交換用ベクターを構築し、Cre発現ベクターとともに上記のJurkatノックイン細胞へ導入を行った。CreによってHygromycin耐性遺伝子とTCRα-p2A-TCRβ遺伝子が交換されるとともに、Puromycin耐性遺伝子が発現するようになるため、Puromycinで選択し正しい組換えが起きたものを得る。
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今後の研究の推進方策 |
正しくTCRα-p2A-TCRβ遺伝子が導入されたJurkat細胞に、FLPe組換え酵素発現ベクターを導入し、frt配列で挟まれたPuromycin耐性遺伝子とチミジンキナーゼの融合遺伝子が欠失した細胞をガンシクロビルで選択する。得られたクローンから正しい欠失が起きたものを選択する。得られたJurkat細胞において、導入したWT1がん抗原特異的TCRα/βが発現するかテトラマーを用いて解析する。発現が確認できれば、iPS細胞でも同様の手順で実験系が正しく行われることが予想できることから、iPS細胞用のターゲティングベクターを構築し、CRISPRガイドRNAとCas9nを共発現するベクターとともに高品質のiPS細胞へ遺伝子導入を行い、同様の実験を行う。 TCRα-p2A-TCRβ遺伝子が内在性TCRβ遺伝子座へ挿入されたTCR-ノックインiPS細胞をT細胞へ分化誘導する。具体的には、T細胞分化を誘導するNotchリガンドDLL1を発現したOP9/DLL1細胞の上で培養し、さらに抗CD3抗体で刺激することでCD8陽性の成熟キラーT細胞へと分化誘導する。こうしてできた成熟T細胞のがん抗原反応性とキラー活性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、がん抗原特異的T細胞からTCRα鎖とTCRβ鎖の遺伝子をクローニングし、高品質のiPS細胞にレンチウイルスベクターを用いて直接遺伝子導入を行うことと、CRISPR/Cas9nとカセット交換法を用いて、がん抗原特異的TCRα-p2A-TCRβ融合遺伝子をiPS細胞の内在性TCRβ遺伝子座へ効率よくノックインする計画であった。 しかしiPS細胞ではT細胞へ分化誘導しないとTCRが発現しないので、まず実験系を確立するために、当初計画していなかったT細胞性白血病由来のJurkat細胞を用いて、再構成しているTCRβ遺伝子座へノックインを試みた。カセットが正しくノックインされたクローンは得られたが、TCRα-p2A-TCRβ遺伝子が交換されたクローンは得られていない。そのためまだiPS細胞へのノックインが開始できておらず、次年度に実施することになったため。
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次年度使用額の使用計画 |
正しくTCRα-p2A-TCRβ遺伝子が交換されたJurkat細胞が得られ、Puromycin耐性遺伝子とチミジンキナーゼの融合遺伝子の欠失により、導入したWT1がん抗原特異的TCRα/βの発現が確認できれば、iPS細胞でも同様の手順で実験系が正しく行われることが予想できることから、高品質のiPS細胞を用いてCRISPR/Cas9nとカセット交換法により、TCRα-p2A-TCRβ融合遺伝子をノックインする。 TCRα-p2A-TCRβ遺伝子が内在性TCRβ遺伝子座へ挿入されたTCR-ノックインiPS細胞をT細胞へ分化誘導する。具体的には、T細胞分化を誘導するNotchリガンドDLL1を発現したOP9/DLL1細胞の上で培養し、さらに抗CD3抗体で刺激することでCD8陽性の成熟キラーT細胞へと分化誘導する。こうしてできた成熟T細胞のがん抗原反応性とキラー活性を検討する。
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