研究課題
がん細胞における細胞形質の不均一性は、薬剤抵抗性出現の一因であり、がん治療を困難にする。このがん細胞形質の多様性は、個々の細胞のダイナミクス、タンパク質の産生量や酵素反応速度の確率論的な“ゆらぎ”に起因すると考えられる。本研究では、これら3点がクロスする膜型細胞増殖因子の細胞外領域切断“エクトドメイン・シェディング”活性の“ゆらぎ”に焦点を当て、ヒト乳腺上皮細胞MCF10A細胞および乳がん細胞MCF7細胞を用いて解析を行った。まず、3種の表面抗CD24/CD44/EpCAMに対する抗体を用いたFACS解析からCD24hi/CD44neg/EpCAMhiをStem type、CD24hi/CD44neg/EpCAMnegをBasal type、CD24lo/CD44hi/EpCAMhi をLuminal typeとして細胞形質分画し、それぞれよりクローンを5株ずつ樹立後、それぞれの細胞集団におけるEGFファミリー膜型増殖因子であるproHB-EGF、proTGF-alpha、proAmphiregulin、proEpiregulinの各因子のシェディングを定量解析した。その結果、各細胞タイプともにproHB-EGF、proTGF-alpha、proEpiregulinのシェディング活性に極めて大きなばらつきが見られ、相関は認められなかった。しかし、proAmphiregulinのシェディング活性については各細胞タイプとの相関性を示す傾向が得られた。このことは、proHB-EGF、proTGF-alpha、proEpiregulinはそれぞれ複数のシェディング酵素が関与するのに対し、proAmphiregulinは1つのシェディング酵素が対応することから、シェディング酵素との対応性を反映していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当初、ヒト乳腺上皮細胞MCF10A細胞および乳がん細胞MCF7細胞より、3種の表面抗原CD24/CD44/EpCAMに対する抗体を用いたFACS解析から分画したCD24hi/CD44neg/EpCAMhi(Stem type)、CD24hi/CD44neg/EpCAMneg(Basal type)、CD24lo/CD44hi/EpCAMhi(Luminal type)のそれぞれの細胞画分と、EGFファミリー膜型増殖因子のシェディング活性に相関性があるのと予想して、解析を進めていた。特に、ヒト乳腺上皮細胞MCF10Aは、その細胞増殖特性をEGFファミリーに完全に依存していることから、細胞自身が産生するEGFファミリー分子のシェディング活性が極め重要であることは容易に予測ができる。しかし、3つの細胞画分の特性がシェディング特性に関して不均一性を示したこと、さらに、各細胞画分からクローンを安定的に樹立するのに時間を要したこと、また、EGFファミリー膜型増殖因子4種、proHB-EGF、proTGF-alpha、proAmphiregulin、proEpiregulinの各因子のシェディング活性を定量する必要性が生じたことから、予定以上の時間を費やすこととなった。しかし、結果的には、当初の予想を支持するデーターが得られそうなところまで来ることができた。29年度は、さらに解析を進める。
28年度の成果を基に、29年度はさらに解析を進めることが容易な状況であると判断できる。proAmphiregulinのシェディング活性とその責任酵素ADAM17の活性とがん細胞における細胞形質の不均一性との関連性を追求する。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)
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