研究課題
現在の日本社会において、75歳以上の4人に1人が認知症を罹患しており、今後さらに増え続けることが予想されるため、その根本的な治療法の確立が求められている。アルツハイマー病は、認知機能障害を呈する神経疾患であり、アミロイドβの産生および蓄積によるアミロイドβの線維化が発症原因だと考えられてきた。今回私たちは、アルツハイマー病のゲノムワイド関連解析よりMITOLがアルツハイマー病のリスク遺伝子候補として同定されたことから、MITOLの大脳皮質・海馬・嗅球特異的な欠損マウスを作製し、アルツハイマー病モデルマウスであるAPPswe/PSEN1dE9マウスを掛け合わせることで、アルツハイマー病におけるMITOLの生理的役割について検討した。その結果、MITOL欠損アルツハイマー病モデルマウスにおいてアミロイドβ線維およびアミロイドβプラークの減少が認められたが、予想に反して、病態は有意に悪化していた。近年、アミロイドβプラークを形成せずに重篤なアルツハイマー病を発症する遺伝子変異(大阪変異)家系が発見されたことから、凝集中間体であるオリゴマーを神経障害の原因とするアミロイドβオリゴマー仮説が提唱された。これまでの結果より、MTIOL欠損アルツハイマー病モデルマウスではアミロイドβオリゴマーが増加することが考えられ、アミロイドβがプラーク化せず、オリゴマーが蓄積することにより病態悪化を引き起こすと推測される。このことはミトコンドリアがアミロイドβの凝集メカニズムに関与するというアルツハイマー病発症の新しい知見であり、治療法の開発に期待ができる。
1: 当初の計画以上に進展している
MITOLの大脳皮質・海馬・嗅球特異的な欠損マウスを作製し、アルツハイマー病モデルマウスと掛け合わせることで、ミトコンドリア機能低下した新しいアルツハイマー病モデルマウスの作成に成功した。さらにこのマウスの解析の結果、アミロイドβがプラーク化せず、オリゴマーが蓄積するという予想外な結果を得たため、今後、新しい研究の展開が期待できる。
ミトコンドリア機能低下したアルツハイマー病モデルマウスにおいて、アミロイドβがプラーク化せずオリゴマーが蓄積したメカニズムを解析する。とくに細胞内におけるアミロイドβのエクソソームを介した細胞外放出過程において異常がないかどうか検討する。さらに、ミトコンドリア機能低下したアルツハイマー病モデルマウスの認知障害の増悪するかどうか、行動解析を行う。
当初予定していた人件費・謝金ならびに旅費を使用しなかったため次年度繰越金が生じた。
人件費・謝金、旅費および物品費として使用する予定である。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件)
EMBO. Rep
巻: 17 ページ: 1785-1798
10.15252/embr
Sci. Rep.
巻: 6 ページ: 31266
10.1038/srep31266.