本研究では、分子機能を直接的に調べるために、シナプス内でシグナル伝達経路を選択的に活性化することができる光遺伝学的ツールを開発することを目的としている。これによって、個々の分子の機能のみならず長期増強誘起に必要な分子数や分子種、シグナル伝達経路を調べることが可能になる。 現在までに、光応答性キナーゼ分子のプロトタイプの開発に成功している。平成29年度は、光応答性分子の活性化と下流分子の活性のイメージングを同時に行うことができるようにするため、2光子蛍光寿命イメージングに最適化した新規の蛍光プローブの開発を進めた。我々が開発した光応答性分子はLOV2ドメインを用いている。LOV2ドメインは400~500nm(2光子励起では750~980nm)の励起波長で構造変化するが、これは、現在我々が分子活性化イメージングに用いている蛍光タンパク質(GFP)の吸収スペクトルと重なっている。すなわち、分子活性化イメージング(GFP観察)を行っている際中に、光応答性分子を同時に活性化してしまうことになる。そこで、光活性化と分子活性化イメージングを別々の波長で励起できるようにするために、新規FRETプローブをランダム変異導入法で開発した。特に、GFPの長波長変異体であるCloverをFRETのアクセプターとし、新規開発の蛍光タンパク質(ShadowY)をFRETのアクセプターとした新規プローブの開発に成功した(Murakoshi et al. 2017)。これによって、900nmで光応答性分子を活性化し、1000nmの2光子励起(光応答性分子を活性化しない)で分子活性化イメージングを行うことができるようになった。
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