アルツハイマー病や前頭側頭型認知症などにおける特徴的な病理学的所見の一つである細胞内凝集体は、タウタンパク質を構成成分としている。これまでの様々な研究から、タウ細胞内凝集体の形成は疾患発症の原因であると考えられており、細胞内におけるタウ凝集体の形成や除去といった細胞内凝集体の動態を規定する分子メカニズムの解明は、治療戦略を考える上で重要と考えられる。本研究では、そのような分子メカニズムに関与する新規分子をCRISPR/Cas9システムを用いたゲノムワイドスクリーニングにより探索することを目指し、その実験系の構築を行った。まず、センサー細胞としてタウ細胞内凝集体形成細胞の樹立を目指し、リコンビナントタウ線維をタウ恒常発現細胞株に導入した。その結果、細胞内凝集体が形成されることを確認し、恒常的に凝集体を蛍光シグナルとして評価可能となる細胞株の樹立に成功した。 またスクリーニングにむけ、タウ細胞内凝集体の有無をFACSで評価できる実験系を確立した。モノマーと凝集体のどちらのタウタンパク質にも蛍光タグが付加されているため、通常のFACS法では凝集体の形成を評価することができない。そこでストレプトリジンOによる細胞膜穿孔を試みた。ストレプトリジンOにより、モノマータウは細胞外に拡散して凝集体タウのみが細胞内に残ることを確認し、FACSにより凝集体形成の有無を評価できることを確認した。CRISPR/Cas9によるゲノム編集した細胞に対し、樹立した本実験系を組み合わせることで、凝集体形成を指標としたゲノムワイドスクリーニングが可能になると考えている。
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