近年、免細胞内代謝が疫担当細胞の機能制御に働くことが明らかになり、免疫代謝学と呼ばれる新しい学問領域が注目を集めている。本研究では、非必須アミノ酸のセリンに着目して、代謝ストレスや栄養代謝環境による細胞内セリン代謝の変容と、その結果生じるマクロファージ機能への影響を検討した。 昨年度の成果を踏まえて本年度は、セリン欠乏による細胞内代謝経路の変化を検討した。メタボローム解析とトランスクリプトーム解析を組み合わせることにより、セリン欠乏状態では、ピルビン酸やグルタチオンの産生が顕著に低下することを見出した。実際に、セリン欠乏状態のマクロファージにピルビン酸を添加することにより、炎症性サイトカインの過剰産生が軽減した。これに対して、ホスホエノールピルビン酸の添加は炎症抑制効果を示さず、ピルビン酸キナーゼPKM2の活性低下が示唆された。そこで、PKM2活性化剤を添加したところ、セリン欠乏による炎症促進効果が阻害された。既に、セリンがPKM2の活性化促進に働くことが、がん細胞などを用いた研究で明らかにされている。一方、グルタチオンの補充が炎症性サイトカインの産生に及ぼす影響は限定的であった。また、セリン欠乏は、マクロファージのM2マーカー発現やミトコンドリア酸化的リン酸化を抑制したが、これらは、ピルビン酸添加により改善しなかった。 本研究により、非必須アミノ酸による新たなマクロファージ機能調節機構が明らかになった。
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