研究課題
マウスは非常に便利なモデル実験動物として幅広く使用されているが、病態モデル動物として考えると、必ずしもヒトの病態進行を模倣しておらず、ヒト病態を模倣できるモデル動物の開発はヒト医学研究でのボトルネックとなっている。本研究の研究目的は、マウスにおいてヒトに特徴的な、さらに言うと、ヒトにしか起こりえない特殊な自己免疫状態である、N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)に対する異種自己抗原応答状態を簡便に引き起こし、ヒトの動物実験モデルとして樹立することである。哺乳動物での主要なシアル酸分子種はC5位のアミノ基の修飾により、N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)とNeu5Gcがあげられる。このため、研究計画として、ヒトと同様のNeu5Gc生合成酵素Cmah遺伝子欠損を起こしたマウスを用い、このCmah欠損マウス血管内皮細胞にヒトにとって異種シアル酸分子種であるNeu5Gcを発現させることが含まれる。また、Neu5Gcに対する免疫応答をマウス個体で惹起することで、これに対する抗体を作成し、マウスに投与することを考えているが、抗Neu5Gcを誘導する条件について検討することから始めた。シアル酸発現に関しては、ある特定の化合物を処理することで、目的の分子種のシアル酸を動脈血管特異的に発現誘導できることが明らかとなった。また、抗シアル酸分子種抗体の樹立に関しては、マウスにとっての異種細胞にNeu5Gcを強制発現させた細胞を免疫源に用いることで、目的のエピトープを持つと考えられる抗体産生を誘導できることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
上述のようにマウスを含む哺乳動物での主要なシアル酸分子種はC5位のアミノ基の修飾により、Neu5AcとNeu5Gcがある。ヒトでは種特異的に上述のCmah遺伝子欠損しており、生合成経路上での前駆体となるNeu5Acしか持たないが、一方で、Neu5Gcを含む動物肉などを摂取しており異種抗原を自己抗原として発現する。ヒト免疫系はNeu5Gcを非自己の異種抗原として捉えるため、これに対する抗体応答を引き起こす。このコンビネーションで、ヒトでは、Neu5Gcに対して、異種自己抗原免疫応答が起こり、これによる慢性炎症が様々な疾患を改悪する。しかしながら、マウスを動物モデルとして使用すると、Neu5Gcは自己抗原であり、当然、これに対する応答も引き起こしていないため、ヒト医学に役に立つ動物モデル系とはいえない。本研究では、マウスにおいてヒトに特徴的な異種自己抗原応答状態を簡便に引き起こし、ヒトの病態動物モデルとして樹立することである。このためには、Neu5Gcを発現しないマウスに対して、人為的にNeu5Gcを発現させると言う点と、Neu5Gcに対して免疫応答を惹起すると言う2点をクリアしていかないといけない。これまでの研究の進捗により、Cmah欠損マウスに対して、化合物処理することで、血管内皮細胞に対してNeu5Gc発現を誘導出来ることを明らかにした。一方、シアル酸トランスポーターを介して、Neu5Gcを直接入れる方法に関しては、モデル細胞として、トランスポーター遺伝子を改変してヒト細胞に導入することで、シアル酸トランスポーターを形質膜に発現する細胞の樹立に成功した。また、抗Neu5Gc抗体応答についても、マウスにとって異種となる細胞株にCmah発現によりNeu5Gcを誘導した細胞を免疫源として免疫することで、比較的良好な抗Neu5Gc抗体産生を誘導できた。
上述のように、本研究ではマウスモデルを用いてヒトに特徴的な異種自己抗原応答状態を引き起こしたい。時間軸で考えると、ヒトでは、長い年月を経て、この状態に達することが考えられるが、一方でマウスの寿命は短く、また、実験モデルとしても、この状態を速やかに作り上げられないと、有効なモデルとしての意味をなさない。そこで、ヒトで特徴的な上記2点の状態を速やかにつくり出すことが重要となる。そこで、今後は、上記の化合物処理の条件を最適化する必要があるため、どのような週齢のマウスにどの程度の量の化合物処理を行うのがいいかなど、条件検討を進めていく。また、免疫応答状態を引き起こすためには、動物を免疫することが妥当ではあるが、この応答には個体差が生じやすい。そこで、これまで分かった免疫の条件を利用して、Cmah欠損マウスから抗Neu5Gc単クローン抗体を作成し、できた単クローン抗体をマウスに導入することで、炎症状態を引き起こすことで、再現性の良い慢性炎症状態を作ることが出来ると考える。このため、単クローン抗体樹立を急ぐ。単クローン抗体作成に用いるミエローマ細胞については、通常非常に高いNeu5Gc発現が見られるため、Neu5Gc不全ミエローマ細胞を作成し、これと免疫動物のB細胞とを細胞融合させることで、反応性のよい単クローン抗体が作成出来ると考えており、これに取りかかる。さらに、自己免疫状態が引き起こすことが出来れば、これまで知られる疾患も出ると組み合わせて、マウスではなかなかヒトと近い病態引き起こせないもでるで、ヒト様の病態が引き起こされるかどうかの検証を行う。Neu5Gc発現におけるトランスポーター利用の系は、バックアッププランであるが、変異型形質膜局在トランスポーターのNeu5Gc取り込み活性を検証すると共に、血管新生時のシアル酸輸送能との関連も調べる。
マウス飼育費用を多めに考えていたが、大学の施設が当初予想より使用でき、次年度での試薬購入などの費用に回した方が、費用対効果が優れると予想されたため。
物品費として使用する。具体的には研究試薬・消耗品購入に使用する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
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