研究課題
本研究は脂質成分であるホスファチジルセリンが老化細胞の膜表面に露出するメカニズムを解明し、老化細胞のクリアランスに着目した新規老化促進マウスの開発・解析することによって、「老い」の分子的基盤を構築することを目指し、以下の検討を行った。(A). 老化細胞特異的に発現が減少するフリッパーゼの同定ヒトでは14種類あるP4型ATPaseと呼ばれる大きなファミリーを形成する10回膜貫通タンパク質が、アミノリン脂質を細胞質に輸送する酵素であるフリッパーゼの候補であると考えられている。そこでまず、ヒトで存在が確認されているP4型ATPase分子すべての老化誘導過程における発現変化を定量PCR法で解析した。その結果、ファミリーの中でも、ATP11Cの発現が老化細胞において発現が顕著に減少することが分かった。さらに、翻訳後修飾などによりタンパク質分解をうける可能性も考えられることから、ウエスタンブロット法によるタンパク質レベルでの解析を行った。しかし、抗体の特異性が低く、うまく検出することができなかった。(B). 老化細胞特異的に局在が変化するフリッパーゼの同定フリッパーゼは細胞膜に局在し、その輸送機能を発揮することから、局在の変化による機能抑制のメカニズムも考えられる。そこで、EGFP-ATP11Cを発現するヒト正常繊維芽細胞を樹立し、局在の解析を行った。その結果、細胞老化誘導前・後どちらにおいても、細胞膜全体に局在することが分かった。
2: おおむね順調に進展している
これまでに、細胞老化とフリッパーゼの関連性については、ほとんど分かっていなかったが、本研究により、老化細胞特異的に発現が減少するフリッパーゼとしてATP11Cを同定することができた。さらに、ATP11C過剰発現細胞も樹立できており、細胞老化過程におけるATP11Cの役割について解析を進める準備も整っているため。
1. RNAi法を用いたフォスファチジルセリンの輸送能の解析これまでの解析から老化細胞特異的に変化が認められたATP11Cに関して、RNAi法で正常ヒト線維芽細胞における発現を抑制し、Annexin Vを用いた蛍光染色により膜表面にホスファチジルセリンの露出が認められるか否かを検討する。2. フリッパーゼ過剰発現細胞を用いたマクロファージによる貪食の解析ATP11C過剰発現細胞株を用いて、様々な条件下(放射線照射、複製ストレス、酸化的ストレス)において細胞老化を誘導した後、Annexin Vを用いた蛍光染色により膜表面へのホスファチジルセリンの露出が抑制されるか確認する。さらにマクロファージと共培養し、老化細胞がホスファチジルセリン依存的に貪食されるか解析する。
予定していた研究計画が順調に進み、効率的に試薬等が使用できたため。
タンパク質レベルでの解析に必要なATP11Cの特異的抗体が利用できないため、新規のATP11C抗体を作成するための費用の一部に使用する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 4件)
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