研究課題
細胞老化は、恒久的増殖停止を特徴とする細胞表現で、抗腫瘍機構として作用する。最近、早老症モデルマウスから老化細胞を人工的に除去すると、「老い」の進行が遅延することが報告され、細胞老化が個体老化の主な原因であることが示された。しかし、加齢に伴い老化細胞が蓄積する機構は不明である。申請者は老化誘導機構を解明し、DNA損傷非依存的に老化細胞を誘導することを可能にした。驚くべき事に、誘導した老化細胞では、貪食シグナルとなるホスファチジルセリンが膜表面に露出する事を見出した。本研究では、老化細胞の膜表面に露出したホスファチジルセリンの貪食シグナルとしての役割とその制御機構を解明し、老化細胞クリアランスが個体における老化細胞の蓄積や老化・老年病発症に及ぼす影響を明らかにする事を目的とする。1. 老化細胞特異的に発現が減少するフリッパーゼの同定前年度、細胞老化において発現が低下するフリッパーゼの候補として、ATP11Cを同定した。そこで、様々な老化誘導系における発現変化を解析した結果、あらゆる条件でATP11Cの発現が減少することを見出した。また、市販の抗体ではウエスタンブロットによる検出が困難であったため、バキュロウイルスシステムによりリコンビナントATP11Cタンパク質を精製し、抗体の作製を行った。2.ATP11C発現抑制・過剰発現が老化細胞におけるホスファチジルセリンの露出に及ぼす影響の解析レンチウイルスシステムを用いて、ATP11Cの発現抑制・過剰発現株を樹立した。その結果、正常細胞におけるATP11Cの発現抑制だけでは、ホスファチジルセリンの露出は起こらないことが分かった。また、老化細胞におけるATP11C過剰発現だけでは、ホスファチジルセリンの露出を抑制することはできなかった。
3: やや遅れている
老化細胞で発現が低下するフリッパーゼの候補として、ATP11Cを同定することはできた。しかし、発現抑制・過剰発現系の解析から、ATP11Cの機能だけでは、老化細胞におけるホスファチジルセリンの露出を説明できない可能性が示唆されたため。
前年度の解析では、ATP11Cの発現抑制だけでは、正常細胞においてホスファチジルセリンの露出は起こらなかった。その可能性として、ATP11Cと構造・機能的に類似したATP11AとATP11Bが機能を補完している可能性が考えられる。そこで、ATP11A-Cの三重発現抑制細胞株を樹立して、ホスファチジルセリンの露出に対する影響を解析する。一方、過剰発現系に関しては、市販のATP11C抗体の特異性の低さが原因で、内在性のタンパク質に対して、どれくらい過剰に発現しているか不明であるため、現在、作製中の抗体を用いて検討する。また、ATP11C以外にホスファチジルセリンの露出に関与する遺伝子を単離するために、ホスファチジルセリンの露出を指標にIn cell analyzerを用いたファンクショナルスクリーニングを行う。
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Plos one
巻: 12 ページ: 1-13
10.1371/journal.pone.0178221