中枢神経系を構成する細胞集団の中で神経細胞の機能解析は高次脳機能の解明の一端を担うと考えられてきたことから研究が盛んであった。一方、中枢神経系において神経細胞よりも多く存在するグリア細胞は神経細胞に比し、研究が遅れており、特に病態時における役割は近年になり広く認知されるようになってきた。そのため、神経細胞とグリア細胞が共存する環境における解析技術、すなわち細胞間相互作用を解析する手法の開発が重要である。本研究では神経細胞とグリア細胞の細胞間相互作用に着目し、その機構を明らかとするために研究を実施した。本研究では特に次世代シーケンス及びバイオインフォマティクスの手法を利用し、神経細胞とグリア細胞が共存する培養条件において各々の細胞を機械的な操作非依存的に分離し、細胞内動態を解析することを目標とした。実験系としてヒトiPS細胞由来神経前駆細胞より誘導したアストロサイトとマウス大脳皮質由来神経細胞を共培養した。その後、この培養系から抽出したRNAサンプルを用いてRNA-seqを実施した。さらに、ヒトとマウスの配列の相違からヒト由来転写産物とマウス由来転写産物の分離することにより、アストロサイト由来の転写産物と神経細胞由来の転写産物を区別した。この実験系を利用し、疾患iPS細胞より調整したアストロサイトとマウス神経細胞を共培養したところ、疾患iPS細胞由来アストロサイトにおいては共培養後に炎症性シグナル関連分子の発現が優位に上昇することが見出され、病態におけるアストロサイトの役割の一端を明らかとすることができた。
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