研究実績の概要 |
私は、骨髄不全・MDSを発症した日本人小児症例において、フォルムアルデヒド分解酵素であるADH5 (Alcohol dehydrogenase 5, ClassIII)の両アレル変異を6名に見出した。さらにこれらの症例は、全例、アセトアルデヒド分解酵素ALDH2(Aldehyde dehydrogenase2)の機能欠損ヘテロ変異を伴っていた。アルデヒドは、外因性のみならず細胞内代謝によっても産生され、種々のDNA損傷を引き起こすことが想定される。ALDH2やADH5単独欠損マウスでは、造血障害を示さない。しかし、小児骨髄不全を発症するファンコニ貧血(Fanconi Anemia; FA)の重要な原因遺伝子であるFANCD2と、アルデヒド分解酵素のダブルノックアウトマウスは、再生不良性貧血や白血病の発症によって早期に死亡することが報告されている(Langevin et al., Nature 2011; Pontel et al., Mol Cell 2015 )。これらの結果は、骨髄幹細胞において内因性アルデヒドが産生され、ADH5とALDH2が協調してその除去を行っていること、除去不十分な場合にひきおこされるDNA損傷は、DNA修復を行うFA原因遺伝子群によって解除されており、その不全状態では骨髄幹細胞の障害が惹起されることを示唆している。ヒトにおいては、ADH5とALDH2が正常機能でもFA分子異常で骨髄不全が発症し、FA分子が正常でもADH5/ALDH2複合欠損により骨髄不全とMDSが発症することを示している。本研究の目的は、原因不明であった小児骨髄不全の一群の患者の存在を証明し、その病態の本質を明らかにし、その診断と治療手段開発への第一歩となる研究である。さらに、基礎医学的には造血幹細胞におけるアルデヒド代謝の意義について重要な知見をあたえるものとなる。
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