研究課題
昨年度からの継続研究として、CD169陽性マクロファージと関連する血中バイオマーカーの検索では、CD169を強く誘導するIFN α刺激によってCD169 陽性マクロファージからCCL8 とCXCL10 の発現が増強することが分かった。さらに大腸癌48 例の血清の解析から、洞マクロファージのCD169 陽性率が高い症例群でCCL8 の血液中濃度が高い傾向がみられた。次に今年度は他の癌腫についても検討を加え、膵癌70症例について癌組織と所属リンパ節を対象に免疫組織学的検討を行った。その結果、洞マクロファージでのCD169陽性率が高い症例では、癌病巣中のCD8陽性T細胞の浸潤数が多い傾向を認めた。さらにCD169陽性洞マクロファージが多い症例では全生存率が有意に良好であった。膀胱癌では44症例について同様の検討を加え、洞マクロファージのCD169陽性率と腫瘍組織中のCD8陽性T細胞の浸潤数に正の相関が得られた。また、癌特異的生存率との間にも有意の相関がみられた。すなわち、CD169陽性率の高い症例(11%以上)とCD169陽性率の低い症例(10%以下)の癌特異的5年生存率はそれぞれ88.3%と31.3%であった。これらの検討から、膵癌と膀胱癌では洞マクロファージにおけるCD169発現は癌患者のT細胞を介した抗腫瘍免疫の活性化の程度と予後を反映する分子マーカーとして有用であると考えられた。洞マクロファージにおけるCD169の発現増強は抗腫瘍免疫の賦活化に関わる可能性が示唆されたため、マクロファージのCD169発現を誘導する天然化合物の探索を行った。その結果、aculeatiside A, naringinおよびonionin AがマクロファージのCD169の発現を誘導することが明らかになった。さらに、aculeatiside Aとnaringinはマウスへの皮下投与によって、リンパ洞マクロファージにおけるCD169発現を誘導すると共にIL-1βとIL12のmRNA発現を誘導することが確認され、これらの化合物が抗腫瘍免疫の賦活に有用である可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
リンパ節の辺縁部に存在するリンパ洞には多数のマクロファージが存在しており、リンパ管を通じて流入した腫瘍抗原を認識して抗原特異的なリンパ球活性化を誘導し、抗腫瘍免疫の成立に関わっている。私達はリンパ節のCD169陽性洞マクロファージに注目し、大腸癌、悪性黒色腫、子宮内膜癌では、洞マクロファージのCD169発現が高いほど、術後の生存率が良好であることを確認している。今年度は、これらの癌腫に加え、膵癌と膀胱癌について、癌組織と所属リンパ節を対象に免疫組織学的検討を行った。その結果、いずれにおいても洞マクロファージのCD169陽性率と腫瘍組織中のCD8陽性T細胞の浸潤数に相関みられ、患者の生存率との間にも有意の相関がみられた。これらの結果から、多くの癌腫においてCD169陽性洞マクロファージは抗腫瘍免疫において重要な役割を担っていると考えられる。CD169陽性洞マクロファージと関連する血中バイオマーカーの検索では、CD169陽性率の高い症例でCCL8 の血中濃度に上昇傾向が見られたが、必ずしも有意の結果ではなく、更なる解析が必要と考えられた。また、今年度からの検討として、マクロファージのCD169発現を誘導する天然化合物の探索を行い数種の候補化合物が確認された。この結果は、抗腫瘍免疫を介した新規治療法に発展する可能性があり、さらに解析を加えたい。以上から、進捗状況はおおむね良好と判断した。
リンパ節の辺縁洞におけるCD169陽性マクロファージの役割については、これまでに検討した癌腫に加えて、他の癌腫においてもさらに解析を加え、CD169陽性洞マクロファージの役割を明確にしたい。一方、洞マクロファージにおけるCD169の発現と相関する血中バイオマーカーの検討については、必ずしも有意に相関するマーカーを確認出来ていないが、さらに検討を加える。一方、新規の方向性として、リンパ節の洞マクロファージの活性化を誘導する化合物として、数種の天然化合物が同定されたことから、この様な化合物を用いた抗腫瘍免疫の賦活を介した抗癌療法の可能性について、今後、検討を加えたい。
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