研究実績の概要 |
癌患者における腫瘍免疫機構の成立において、抗原提示・プライミング相でのリンパ節マクロファージ(Mφ)の重要性が注目されている。リンパ節に流入した癌由来抗原はリンパ節洞にまず到達し、リンパ節洞Mφに捕捉される。CD169は洞Mφに特異的に発現しているシアル酸受容体であるが、我々は洞MφのCD169 発現の程度が患者毎で大きく異なることを見出し、種々の癌腫での解析を行ってきた。最終年度である今年度の実績として、食道癌および膀胱癌患者において、CD169陽性洞Mφが重要な役割を果たすことを明らかにした。 食道癌患者182症例の所属リンパ節の免疫組織化学的解析(Pathol Int, 2018)では、洞MφにおけるCD169の発現は患者毎に異なり、CD169高発現群では低発現群に比し、癌特異的生存率が有意に高かった。さらに洞MφにおけるCD169の発現の程度は、腫瘍内のCD8陽性Tリンパ球の浸潤密度と正の相関を示した。これらの結果から、所属リンパ節の洞MφにおけるCD169の発現の程度は予後予測因子として有用と考えられた。 次に手術治療を行った浸潤性尿路上皮癌44 例を対象として、所属リンパ節の洞MφのCD169発現を解析(Cancer Sci, 2018)すると、食道癌と同様に、CD169 高発現群で有意に腫瘍組織内CD8 陽性リンパ球の浸潤密度が高く、術後の癌特異的生存率が良好であった。 以上の結果から、所属リンパ節の洞MφのCD169 発現を解析することは、食道癌や膀胱癌患者の腫瘍免疫能と予後を推測する分子マーカーとして有用だと考えられた。本研究課題のこれまでの検討から、我々はすでに大腸癌、食道癌、悪性黒色腫および子宮体癌でも同様の結果を報告しており、多くの癌腫において、リンパ節洞マクロファージに発現されるCD169が腫瘍免疫の成立に重要な役割を果たしているものと考えられる。
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