研究実績の概要 |
上皮-間葉移行(EMT)により間質細胞様の形質を獲得した癌細胞は、自分にとって都合のよい「癌間質」を周囲に構築して浸潤・転移しやすい微小環境を作り出すとともに、種々の癌治療に抵抗性となることが知られている。本研究では、腫瘍組織内に癌特有の微小環境が構築される以前の早い段階でEMTの存在と治療抵抗性を予測し得る血清診断マーカーを獲得することを目的として、EMTを認めない肺腺癌細胞にEMTを誘導することにより分泌が亢進するタンパク質をLC/MS法を用いて網羅的に解析した。結果、同定された1270個のタンパク質の中から34個の「EMTマーカー候補タンパク質」を獲得することができた。この中には、癌細胞の浸潤能亢進や血管新生、抗癌剤耐性との関連が報告されている種々の細胞外基質タンパク(ECM1,Lumican,LGALS3,LNβ3,NRP2)やサイトカイン(MIF,IL11,IL6)、Matrix metalloproteinase(MMP1,2)などが含まれていた。ECM1やLumicanは癌間質の線維芽細胞が過剰発現して癌細胞の浸潤を亢進させることが知られているが、EMTを獲得した癌細胞もこれらを産生、分泌することで、積極的に細胞外マトリクス機能を調節していることが明らかとなった。さらに当研究グループで確立したReverse Phase Protein Array法により肺腺癌患者血清中のこれらの候補タンパク質を検出したところ、健常者に比べさまざまな程度で分泌亢進が認められ、EMTに基づく高悪性度症例を早期に検出できるバイオマーカーとしての有用性が示唆された。また、この中には抗癌剤の存在下で生育が可能な「シスプラチン耐性肺腺癌細胞」でも発現亢進を認めるタンパク質もあり、現在「EMTに基づく治療抵抗性の検出マーカー」としての有用性についても評価を進めている。
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