研究課題
胃腺粘液に特徴的な糖鎖であるαGlcNAcを欠損したA4gntノックアウト(KO)マウスはピロリ菌が感染していなくても胃粘膜に炎症が生じ、自然に分化型胃腺癌を発症するユニークな胃癌の疾患モデルである。我々はA4gnt KOマウスの網羅的遺伝子発現解析から、炎症性サイトカイン、細胞増殖因子の発現が野生型マウスに比較して有意に増加しており、このマウスにみられた胃発癌には慢性炎症が密接に関与している可能性を示した(Karasawa et al, J Clin Invest 122, 923-934, 2012)。本研究の目的は新たな胃癌の予防・治療法の開発を目指して、上述の新規モデル動物を用いて粘液糖鎖シグナルと発癌制御機構の関係を解明することである。平成28年度はαGlcNAcの欠損によって生じる発癌の分子メカニズムを解明するため、発癌抑制因子となりうる新規αGlcNAc含有糖蛋白質の同定を開始した。我々はαGlcNAcが結合する主な糖蛋白質としてMUC6を報告したが (Zhang et al, J Histochem Cytochem 49, 587-596, 2001)、発癌の機序をMUC6だけに求めるのには限界がある。内在性にαGlcNAcを発現している胃癌培養細胞やマウス胃粘膜を対象に抗αGlcNAc抗体(HIK1083)を使用したイムノブロット分析から7~8種類のαGlcNAc含有糖蛋白質が検出され、本年度はこの中で発癌との関連が示唆される分子量約25kDaの糖蛋白質を同定することができた。現在、その糖鎖構造および機能解析を進めている。平成29年度はその他のαGlcNAc含有糖蛋白質について同定を進める予定である。同定された蛋白質については機能解析を進め、αGlcNAc含有糖蛋白質と発癌制御機構の関係を明らかにしていきたい。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度の実験計画に掲げた癌抑制分子となりうるαGlcNAc含有糖蛋白質の同定について、野生型マウスの胃粘膜溶解液を対象として、HIK1083を用いた免疫沈降を行った。この画分において、その分子性状から既知の発癌関連分子と考えられる糖蛋白質の存在が示唆された。候補となりうるいくつかの分子の抗体を使用して、免疫沈降画分のイムノブロット分析を行い、発癌との関連が示唆される膜結合型糖蛋白質を同定することができた。このことから、概ね順調であると判定した。
平成28年度に同定された蛋白質については、発癌シグナルとの関連を含めて機能解析を行う。またαGlcNAcの結合も含めて糖鎖構造解析を進める。さらにその他のαGlcNAc含有糖蛋白質について同定を進める予定である。
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