胃腺粘液に特徴的な糖鎖であるαGlcNAcを欠損したA4gnt KOマウスはピロリ菌が感染していなくても胃粘膜に炎症が生じ、幽門部に分化型胃腺癌を発症するユニークな疾患モデルである。 本研究の目的は新たな胃癌の予防・治療法の開発を目指して、上記の新規モデル動物の発癌制御機構を解明することである。平成30年度は前年度に引き続き、αGlcNAcの欠損によって生じる発癌の分子メカニズムを解明するため、発癌抑制因子となりうる新規αGlcNAc結合糖蛋白質の同定及び機能解析を進めた。平成29年度までに野生型マウス(10週齢; n=3)の胃粘膜からプロテオミクスの手法によりαGlcNAcが結合している蛋白質としてMUC6とMUC5ACを確認したと同時に、gastrokine2、TFF2、galectin2を新たに同定した。 またこれらの解析過程で、新たにαGlcNAcが結合する膜結合型ムチンとしてMUC1を同定し、マウス胃幽門部においてαGlcNAcとMUC1の局在が一致することを確認した。さらに、MUC1の下流で活性化される分子として、AKTとERKのリン酸化を検討した。A4gnt KOマウス(10週齢; n=3)では野生型マウス(10週齢; n=3)に比べて、いずれの分子においてもリン酸化の亢進が認められた。 最後にαGlcNAcの欠損とその他のシグナル分子のリン酸化の関係について検討した。その結果、Stat3とErbB2のリン酸化の亢進がA4gnt KOマウス(10週齢; n=2)の胃粘膜で確認された。Stat3は3週齢ですでにリン酸化が亢進し、リン酸化Stat3の局在はαGlcNAcと一致して粘膜深層であった。また活性化ErbB2は粘膜表層に局在していた。 以上より、A4gnt KOマウスの癌化にはAKT、ERK、Stat3、ErbB2の活性化が関連していることが判明した。
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