研究実績の概要 |
128例の肺がん組織において、m6Aをmass spectrometryで測定したところ、total adenineで割った値でも腫瘍部有意におおくみられた(P= 9.36e-10)。この128例をm6A/Aの値の高いものと低いものにわけて、臨床的情報を比較したところ、年齢、喫煙歴、組織分類、病期、EGFRの変異いずれの指標もこの2群では差が見られなかった。しかし、EGFRのリン酸化を免疫染色で調べてみると、リン酸化群で、m6A/A値が有意に低かった。いっぽうtotal のEGFRの染色値でみると、m6A/A値によらず差はなかった。興味深いことに、下流シグナルのpSTAT, pAKTといったものでもそれらの発現群で、m6A/Aが有意に低かった。さらに、生存曲線をみてみると、m6A/A値の低いほうが予後がよかった。T?N of m6Aのhigh/lowでHazard ratioは1.072 (p=0.032)。これらの修飾に関わる酵素群、METLL14, WTAP, METLL3(以上writer), ALKBH5, FTO(Eraser)の発現と予後の関係をin silicoのdata baseからみると、ALKBH5以外は低発現群の予後が有意に悪い。自験例で、これらの酵素の発現をqRT-PCRではかってみると、METTL14, FTO, WTAPではやや腫瘍で減弱している傾向があった。mA/Aの値と、これらの酵素の発現量の相関をとっていみると、必ずしも、予想される機能を反映しているわけではなかった。 つぎに肺がんのcell lineでmRNAの分画でm6A/Aを測定してみると、total RNAよりは高率に存在することが確認でき、8個のlung cancer cell line, 1個のimmortalized cell lineでも同様であった。この細胞系でさらに、m6Aの臨床病理学的な意義を検討していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
組織のdata, 細胞株のdataなどが蓄積しており、targetとなる遺伝子の探索をする段階になっている。 ヒト検体における意義という意味では、ほぼ順調にdataが蓄積されている。また使用可能な抗体についても以下のように複数の会社の製品の情報を入手して、testをはじめている。YTHDF 2 (Proteintech WB, IHC, ELISA, IF, IPに使用可能; Abcam WB IHC ;SIGMA-ALDRICH WB,ELISA), ALKBH5 (Novus Biologicals WB,ELISA,IC,IF; Biorbyt WB,IHC,ELISA),FTO (Novus Biologicals WB,IHC,IF,ELISA)などについての性能試験はいまのところ順調である。また、調べるcell lineについてもimmortalized cell lineもふくめて使用する材料も順調に準備され、preliminaryな測定はほぼ終わっている。 解析の性格上、primary tissueの解析結果の解釈は、cell lineの解釈をふくめた上で種々のconfoundingsを考慮して行う必要がある、つまりさらに挑戦的なのであるが、とくにtargetとしてわかりやすい分子を使うことに決めており、平行して手堅いdataも得ることができるのではと期待している。
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今後の研究の推進方策 |
臨床検体におけるm6Aの測定、m6A修飾関連蛋白のmRNAレベルでの評価はいずれも順調に進んでいる。m6A修飾に関わる酵素蛋白はm6Aを付加するWriter (METTL3, METTL14, WTAP)、m6Aを外すEraser(ALKBH5, FTO)、さらにm6A修飾部位を特異的に認識するReader(YTHDF1、YTHDF2、YTHDF3など)に分類され、これらの機能蛋白が肺がんの腫瘍細胞においてどう発現、関係しているか肺がんセルラインを用いて調べていく予定である。具体的には肺がんセルラインの中でm6A修飾(m6A/A; %表示)が比較的高かったセルラインを用いて、m6A修飾に関わる酵素蛋白をsiRNAないしshRNAによりノックダウン、また、ベクターを用いた酵素蛋白遺伝子の強制発現株を作成し、m6A修飾の変動をLC-MS/MSで定量的に測定し、さらに、proliferation assay、apoptosis assay、migration assayや invasion assayによる機能解析も実施する。機能などで変化がみられた場合、m6Aはpost-transcpriptionalな翻訳段階での効率変化をもたらすことが知られており、過去の文献を参考にして代表的なoncogeneについて、mRNAレベル、タンパク質レベル、それぞれにおける発現量の変化をRT-PCRやWestern blottingで評価していく。Targetとなる遺伝子群を追跡するにあたって、polyA+精製を経たRNAに対してm6A抗体を用いてimmunoprecipitationを行い、次世代シーケンスを用いて、網羅的なm6A修飾部位の探索も実施し、さらに、m6A関連修飾蛋白のノックダウンまたは強制発現株における変化も評価する予定である。
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