研究課題
本研究では、カーボンナノチューブと低温プラズマを融合させた新規治療法の開発を目的として、今年度は培養細胞レベルの実験を施行した。Met5A中皮細胞株の可溶化物を使用して、中皮腫発がん性の証明された多層カーボンナノチューブ(NT50)と発がん性のないことが証明された多層カーボンナノチューブ(NTtngl)がそれぞれ特異的に吸着するタンパク質をマススペクトメトリーにより網羅的に同定した。2種類のカーボンナノチューブに特異的に吸着するタンパク質を多数同定できたが、両者に共通するタンパク質としてヘモグロビン、ヒストン、トランスフェリンが得られた。このうち、ヘモグロビンとヒストンはアスベスト繊維に特異的に吸着するタンパク質としてすでに知られていた。Met5A中皮細胞のカーボンナノチューブ取り込みの解析においてはNT50のみが効率的に取り込まれ、しかもヘモグロビンあるいはトランスフェリンで前処理をした繊維が有意に多く取り込まれ、同時に細胞内の触媒性2価鉄量も有意に増加した。この現象は、コメットアッセイによるDNA傷害と比例関係を示した。低温プラズマ照射に関しては、線維芽細胞と悪性中皮腫細胞を比較すると抗がん剤シスプラチンへの感受性に有意差はないにもかかわらず、低温プラズマへの感受性は悪性中皮種細胞において有意に高いことが判明した。低温プラズマの作用は、クエン酸アンモニア鉄を付加した処理で感受性が増加し、鉄除去性キレート剤デスフェラールの処理により感受性が減少することが判明し、細胞内の鉄が低温プラズマへの細胞の感受性を決定する重要因子であることが明らかとなった。そして、低温プラズマにより細胞死に至る過程で、オートファジーが関与していることが判明した。
1: 当初の計画以上に進展している
カーボンナノチューブに関しては、特異的吸着タンパク質の同定を行うことができ、また、低温プラズマに関してはその作用機構として細胞内の触媒性2価鉄が重要な因子であり、中途でオートファジーが関与することがわかるなど、当初の計画以上に進展している。
研究は当初の予定通りに進行している。平成29年度は、細胞株に対してカーボンナノチューブと低温プラズマを同時に負荷する実験を施行する。また、動物モデルによる実験を行う。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
Cancer Science
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Biochemical Biophysical Research Communications
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https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/laboratory/basic-med/pathology/pathology1/