研究課題/領域番号 |
16K15263
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
平塚 真弘 東北大学, 薬学研究科, 准教授 (50282140)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | マラリア / 核酸クロマトグラフィー / 診断法 |
研究実績の概要 |
マラリア感染の診断の遅れは病態の重症化を招くため、迅速、簡便、高感度かつ複数の原虫種を特異性高く検出できる診断法の開発が国際的な喫緊の課題になっている。本研究では、核酸クロマトグラフィーを利用して、4種のマラリア原虫の感染の有無及び種の特定を1時間以内に診断できる方法を開発することが目的である。方法は、マラリア原虫ミトコンドリアDNAのチトクロームCオキシダーゼⅢ遺伝子をターゲットとして、(1) DNAタグ及びビオチンラベルプライマーによる原虫種特異的PCRを行い、(2) その産物をアビジンラベル青色ナノ粒子含有展開液と混合し、(3) DNAタグの相補配列がプリントされた核酸クロマトグラフィーストリップに展開させ、(4) 青色のラインの位置で視覚的に診断を行う。同法は、申請者の独自の発想に基づくものであり、高額な検出機器や煩雑な解析操作を必要としない特徴を持つ。マラリア流行地域で実施可能な画期的な診断法となり得ることができる。核酸クロマトグラフィーストリップは、尿糖検査薬や妊娠検査薬のようなものであり、本方法を用いることによって、1時間以内にマラリア感染の有無だけでなく、感染したマラリア原虫種も特定することができる。簡便で大型の検出機器を必要としないことから、マラリア流行地におけるフィールド検査に極めて適した方法となり、非常に大きな波及効果を期待することができる。本手法は、今までイムノクロマトグラフィーの研究を行ってきた申請者によって効果的に遂行することができ、マラリア原虫特異的PCRなどの検討は、マラリアの遺伝的多様性の解析という点でも学術的に意味がある。なお、開発した方法については、国内外の特許申請を行う予定であり、マラリア診断薬として製品化されれば、産業への波及も期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、初めに「マラリア原虫特異的PCR条件の検討」を行った。4種のマラリア原虫種を特異的に同定することを目指して、各マラリア原虫に特徴的なDNA配列をPCR増幅できる条件を検討した。マラリア原虫ミトコンドリアDNAのcox3遺伝子をターゲットとして、種特異的検出する方法でPCR条件を検討した。標準DNAとして、4種のマラリアに単独感染したケニア人及びヴァヌアツ人由来の精製済みDNAを使用した。用いたPCRプライマーは、各マラリア種に特徴的なcox3遺伝子配列に続き、スペーサー配列、DNAタグ配列を連結した。また、リバースプライマーも各マラリア種に特徴的な配列を選択し、末端にはビオチンをラベルした。これらのプライマーセットを使用し、各マラリア原虫種を特異的に増幅できるPCR条件を検討した。なお、この時点では、1種類のマラリア種を1本のチューブで反応させるシングルPCRで条件を検討し、鋳型とプライマーの組み合わせが一致しない場合において、非特異的な増幅が全く認められないような条件を見出した。また、4種のマラリア原虫cox3遺伝子の共通配列を増幅するプライマーセットも構築した。次に、「マルチプレックスPCR条件の検討」を行った。4種のマラリア原虫cox3遺伝子を特異的に増幅するPCRプライマーセット及び共通配列を増幅するプライマー、計5種のセットを1本のチューブ内でマルチプレックスPCRする最適反応条件を見出した。次に、「核酸クロマトグラフィー反応条件の検討」を行った。PCR終了後、反応物にアビジン結合青色ナノ粒子を含む展開バッファーを混合し、核酸クロマトグラフィーストリップ上に展開し、青色のバンドが明確に目視できるような展開条件を決定した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、まず、「検出感度の検討」を行う。マラリア感染診断において、感染量の少ない患者では顕微鏡法やイムノクロマト法では感度が低く偽陰性となる可能性が高い。したがって、マラリア感染患者の末梢血から抽出される原虫DNAが微量の場合でも検出できる感度を有していることは、適切な治療を開始する上で非常に重要である。現時点ではPCRが最も高感度な検出法であり、PCR後の産物の検出は一般的にアガロースゲル電気泳動-エチジウムブロマイド染色で行われる。申請者のパイロットスタディにより、核酸クロマトグラフィーストリップを用いたPCR産物の検出は、アガロースゲル電気泳動-エチジウムブロマイド染色よりも高感度である可能性が高いことを見出している。そこで、蛍光インターカレーターにより定量した1次PCR産物を段階希釈してテンプレートとして用いることで、検出感度の検討を行う。鋳型のDNA量を1ng、1pg、10fg及び1fgとしてPCRを行い、最終検出法をアガロースゲル電気泳動-エチジウムブロマイド染色と核酸クロマトグラフィーで比較する。次に、「血液直接PCR及び唾液利用PCRの検討」を行う。マラリア流行地域において、PCR法による高感度なマラリア検出には主に末梢血から精製されたDNA検体が必要となる。しかしながら、DNAの抽出は一般的なキットを用いても数時間を要する。また、採血が必要となるために患者への侵襲性が問題となる場合がある。そこで、総合的なマラリア検出時間の短縮を図り、かつ採血の侵襲性を回避するために、血液直接PCR試薬を使用した核酸クロマトグラフィー検出を検討する。また、唾液にもマラリア原虫由来のDNAが存在することがすでに明らかになっていることから、唾液をプロテアーゼ含有液で熱変性後、遠心分離し、その上清をDNA源とする方法も同時に検討する。
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