マラリア原虫種の詳細な特定は、その後の最適な治療薬を選択する上で極めて重要な情報である。マラリアの診断には、顕微鏡法やイムノクロマト法が利用されている。顕微鏡法は原虫形態から感染原虫種を特定するが感度と特異性に問題がある。それに対し、PCR法は顕微鏡法やイムノクロマト法より感度が高く、原虫種を同定できる特異性も高い。しかし、PCR後のゲル電気泳動の煩雑さや解析機器のコストが高く、現場診療所におけるルーチンな診断には適していない。そこで、Multiplex single-tube nested PCRと核酸クロマトグラフィーを利用して、5種のマラリア原虫(熱帯熱マラリア、三日熱マラリア、卵形マラリア、四日熱マラリア及びサルマラリア)に特徴的なDNA配列をタグ配列付加プライマーによりPCR増幅し、それらの産物を相補DNA配列がプリントされた細い短冊状の核酸クロマトグラフィーストリップに展開することで検出されたバンドの位置から、マラリア感染の有無及び感染マラリアの原虫種を同時に特定できる簡易迅速診断法の構築を行った。当初は、サルマラリアを除いた4種の原虫検出系を構築する予定であったが、研究が予想以上に進展して、5種の検出系を構築するに至った。その結果、核酸クロマトグラフィーはアガロース電気泳動に比較して10倍以上の高感度を示した。さらに同法は、熱帯熱マラリアに対し0.3 parasites/μL of bloodの検出感度を示したことから、無症候性のマラリア保有者も診断可能であることが示唆された。ケニア人由来のヒト臨床サンプルを用いて構築した診断法を評価したところ、顕微鏡法やイムノクロマト法に比べて感度及び特異度が優れており、適切な治療薬の選択が可能となると期待できる。
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